現代俳句コラム

おおかみに螢が一つ付いていた金子兜太
 ぶっきらぼうで野太い俳句。まさに金子兜太らしい金子兜太だからできる俳句。おおかみという巨大な存在感。そこにぽつんと螢がくっついている。「付いていた」という言い方から、誰かが語りかけている印象があるが、それは兜太自身の声ではない。むしろ、この句を読んだ瞬間、誰かの声が自分の声になっている。自分が呟いている。まるで、今、見てきたかのように。
  おおかみは日本では古来から「大神」。そして絶滅していった。一方、螢火は「たましい」。螢もいまにも絶滅しそうである。螢が助けを求めるように絶滅したおおかみにくっついている。そしておおかみは大神となり、たましいである螢を日本の外へ連れ出す、その直前の一瞬。
  この現実から切り離されたような一コマは、絵本の一ページのようでもある。この不思議な感覚は、螢が夏の季語、狼が冬の季語、という俳句の決まりごとが影響しているかもしれない。もちろん絶滅したニホンオオカミと現存する螢との組み合わせが不思議さを醸しだしているが、俳句をつくる者に刷り込まれてしまった狼は冬のものという決まりごとと、夏の象徴である螢との同時の存在がこの俳句に不思議な印象を与えている。それは、宮崎駿の映画「千と千尋の神隠し」の四季の花が同時に咲いているシーンの異様さに似ている。(ちなみにこの映画では、一つ一つの花の名がわかるように描かれており、その結果各季節の花が同時に咲く不自然さからそこが異界であることがわかる演出になっている。)
  金子兜太は多くの狼の句を作っているが、これほどストレートで、これほど難解で、これほど心に残ってしまうものは、この句を置いてないであろう。この句の裏にある憂いている兜太の根幹の部分を感じたい一句である。
 
※金子兜太先生を偲び、2013年12月24日現代俳句データベースコラムから再掲載いたしました。
評者: 大石雄鬼
平成30年4月18日

インターネット俳句会

蛇穴を出て戦場へまつすぐに
宮本悠々子
春耕や五指の聞きたる土の声
カミムラフサコ

インターネット俳句会「一般の部G1」高点句

得点番号俳句俳号
1120鉄棒の錆の香を掌(て)に卒業す石田晴
11364忘却も記憶のひとつ朧月青石
1017春がよく見えるところに席を取る史慧
9436兜太逝く暗夜に太く臥竜梅青野草太
9583大試験父に借りたる腕時計伊予尚女
8806牛の尻たたく少年山笑うかささ和
8564囀やパレットに溶くうすみどり高橋みどり
86兜太逝く春の北斗は天頂に青野草太
8852蛇穴を出て戦場へまつすぐに宮本悠々子
8243梅林を遺し豪農絶えにけりつよし
8837辞令手に春一番の駅に立つ石川秀也
8376父のトス子は春光を打ち返す長野遊
848草萌や牛の乳房のふれるかに河童

インターネット俳句会「一般の部G2」高点句

得点番号俳句俳号
10294春耕や五指の聞きたる土の声カミムラフサコ
9725春の陽は残して去りぬ清掃車松越路
981落椿まだ魂ひの重さありのりこ
948春一番不法駐輪なぎ倒す二木寒山
9372春疾風立ち喰い店のピンヒール眞紅
8429言へぬ事雛に言ひて仕舞ひけりねぎ
7121せせらぎの藻は藻をゆらす春日かな
7248桜餅卓に置かれて妻の留守としもり
7451身の丈の幸せ飾る雛の段なかおち
7774踏青やくるりと剥ける茹で卵大隈隼人
746親子象てらてら光る春の泥真珠
7379春の野にまだ少しある余白かな露砂