各賞紹介

室生 幸太郎(むろう・こうたろう)


昭和8年、岡山県笠岡市生まれ。同27年3月「青玄」に入会、日野草城に師事。草城没後は伊丹三樹彦に師事。同37年、青玄賞を受賞。翌38年、現代俳句協会に入会。平成18年1月「青玄」終刊により、平成19年1月有志とともに後継誌「暁」を創刊。句集に『海辺』『夕景』、その他『日野草城全句集』『日野晏子遺句集』『日野草城句集』の編集など。大阪府箕面市在住。


「第63回現代俳句協会賞受賞作」    室生幸太郎

啓蟄の標本室の闇さざめき
春一番裸マヌカンに靴履かす
母をなおこの世にのこすぼたん雪
暮れなずむ龍太の山河辛夷咲き
植物図鑑鬱々とあるさくらどき
グラスに浮く暗い目と会う桜の夜
懲りない老人さくらにバンザイバンザイして
花らんまん地球の滅ぶ日のように
飛花落花昭和を忘れたい人に
日がな一日ロダンは落花数えいて
ぶらんこの少女魔性をかがやかす
春愁のほとけ裳裾にある乱れ
桐の花咲いて卒塔婆の増える村
カシニョールの夏帽子来る浜通り
蛍火降る自決の兄を思うたび
絵本のほたるアパートの母子照らす
大昼寝老いては猫にしたがって
眼帯して少年の日の西日に会う
ヒロシマに消え行くため夏帽子
ヒロシマの影がかぶさる夏帽子
八月某日人体図にピン強く押す
猫二匹と暮らすピカドン見て老いて
八月の鬱を突き出すところてん
生身魂ときどき死んだふりをして
病窓にかもめが海を連れてくる
星月夜一番暗い星に住み
かりそめに人に生まれて星月夜
カーブミラー冥府の道を写しだす
霧の夜の村を捨てたい床柱
棺の窓より月光を掬いとる
地動説知らない蛇が穴に入る
木の実ふる眠るおんなの全身に
黄落にかかわりもなく猫散歩
抱きあえば星座は少しずつ冬へ
窓の蔦枯れて明るむ『歎異抄』
枯葉舞う軍靴近づきまた近づき
落葉焚く軍手で軍手の火を払い
火のなかの何をかなしみ落葉焚く
アプレゲールと呼ばれた人と冬日向
サイパンのことには触れず冬日向
着ぶくれてマヌカンの眼を受け流す
梟鳴く高層ビルの闇の中
雪女絵本のなかに雪降らす
雪女乗せてガラスのエレベーター
風花舞うかなしみは先ずこめかみに
風花舞う太郎も花子も足萎えて
風花舞う首から上のないマヌカン
信子逝き寒月光の窓のこる
冬三日月父を亡くした日もこんな
去年今年火のなかの火が燃えあがり

受賞の句は現代俳句データベースに収録されています。
 
※受賞者略歴は掲載時点のものです。