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<コメント訂正いたしました>宇多喜代子全句講評俳句講座を終えて 宮崎県現代俳句協会

事業部 (2010年1月07日掲載)


 年の瀬も押し迫った十二月五日、宮崎市内のホテル会議室で「宇多喜代子全句講評俳句講座」が行われた。初めに後藤章事業部長の本事業の趣旨説明を兼ねた挨拶、次いで宮崎県現代俳句協会の高尾日出夫会長の開催地代表としての挨拶のあと、宇多喜代子会長による本講座が始まった。投句者三十九名、作品七十八句であった。
 宇多会長は、一句ごとに感想や問題点、言葉の使い方など丁寧に講評、文字通りの全句講評となった。またおりおりに有名俳人の俳句を例にとった作り方や俳句観を交えて語られ、参加者それぞれ今後の句づくりに大きな成果が得られた充実の三時間であった。

 下記投句作品各人一句

朝取れの光るトマトを三つ四つ        桑原 房子	

○散文調でそのまま過ぎるので、「光るトマト」は「トマトの光る」として、語順を考えてみるといい。


空蟬の生あるつもり爪力           竹内千恵子	

○「つもり」は必要か?「爪の力」とだけ言って断定したほうが俳句として力が強くなる。


美術展交互に靴のきしむ音          吉原 波路	

○好きな句だ。美術館の感じが出ている。特選に選んだ。


新米へはるか棚田の影二つ          大浦フサ子	

○「新米」と「棚田」はていねいすぎる。「へ」は曖昧なので、新米「や」とすると客観的になる。


本能の鍬形虫に秋思かな           仁田脇一石	

○「秋思」という抽象表現は「春愁」などと同じように難しい。


道草をすればサルトリイバラかな       村上 由之	

○いい句。「だからこうなのよ」と言うことが書いてないところがいい。


鳳仙花はじけアイドル大ヒット        楢原 澤子	

○アイドルがぴょんぴょんしている様子が伝わる。このままでよい。ただ、「はじけ」と「大ヒット」は同義ですね。


無蓋の村秋晴の下にありて          高尾日出夫	

○面白い。秋晴れの様子がよく表れた。「無蓋の村」で切れているので、この句の場合「ありて」でいい。特選に選んだ。


秋空に浮く雲淡くマリーの死         吉村  豊	

○死を悼んでいる句なのだけど、さらっとしていていい。「ピーターポール&マリー」のことということですが、どこの「マリー」であってもいい句と思います。


板塀に靴跡ひとつ草紅葉           亀田りんりん	

○行儀のよい句ですね。あざやかに草紅葉の景が見えていい。


始祖鳥やジュラ紀の空に月昇る        遠目塚信子	

○「始祖鳥」と書いたら「ジュラ紀」までは言わなくてよいでしょう。「南の空に月昇る」でもよいのでは。


体液をしづかに満たす秋はじめ        小島 静螂	

○秋の初めの様子がよく出ている。無理のない句。


味噌汁の椀を手にする暮の秋         野瀬 志郎	

○このままで異を唱えることはありません。


桐一葉口裏合わず落ちている         山口木浦木	

○「落ちている」と言わなくてもよいと思ったのだけど、おもしろい着想です。


紙縒りふと耳穴に入れ秋思かな        中村 義郎	

○「入れ」は言わなくても「耳穴に」の「に」で分かります。高校生に俳句の説明をするとき泣きそうになることがあります。たとえば、この「紙縒り」 なんか…。(笑)


釣瓶落し左近太郎は居酒屋に         中尾 和夫	

○左近太郎というのは獅子威しのようなもので、水の力を利用して脱穀をする装置とのことですが、左近太郎を人名として、その辺の居酒屋にそんな男が…と読むと面白い。「釣瓶落し」は「秋の夜」くらいでも。


作り笑いする鏡中や冬はじめ         玉木 節花	

○このままでいいでしょう。


木犀香行方を探す坂の道           井上 英子	

○木犀や沈丁花などは香りで季語となっているのだから、「香」は要りません。


生きて居る秋思の形ととのえて        永田タヱ子	

○いただきました。秋思の形とは?ということを自分の中で折り合いをつけたということでしょう。


すれ違う思いくすぐるねこじゃらし      海蔵由喜子	

○「思いくすぐる」に工夫があっていいでしょう。ただし、この言い方ムードに流れます。


シュワシュワと茄子揚げ君はピリ辛に     後藤ふみよ	

○「シュワシュワ」とですが、大きい感動か、小さい感動かに関わらず、大発見、人生の大事件というのが句の中にある。君のことをとても思っている感じ。


涸沢の雪渓お鉢に紅葉咲く          平尾 綵星	

○「お鉢」が分かりにくい。発表する、他人の目に触れるということになると、いくら感動したとしても、読者に伝わらないとだめだ。「涸沢の雪渓紅葉咲くように」などとすれば伝わる。


この秋思ふれねば開かぬ自動ドア       山野 智江	

○これもいい。この「秋思」もよいでしょう


食欲や柿が太陽喰ってゐる          鈴木 康之	

○健康的な把握がいい。ご飯食べてパッと寝る。自動ドアが比喩的な言葉として働いている。


割り切れぬ円周率や蟻地獄          塚田 和子	

○世の不条理を円周率に託しているのだと思いますが、「蟻地獄」にもまた、同じような意味があります。


霜夜には静寂降りきて殻を閉づ        横山 修子	

○言いたいことは分かるように思うが、「閉づ」の主格が何なのか分かりにくい。形にならないものを、物に語らせるという手法も考えてほしい。思いを物に託して語らせるのです。散文かと思われるような句も語順を変えると詩になります。


家という小さな袋かみふうせん        長友  巖	

○このままでいい。


蛇の衣脱ぎつ優しきその目玉         疋田恵美子	

○「つ」ではなく「脱ぎて」としたほうがよい。ただし「て」の乱用はほどほどに。


足るを知る老いの笑顔や秋刀魚二尾      堀口 昭美	

○こういう心情を大切にして句を書くのはよいことです。句帖に書きとめておきましょう。


塀に黒猫私にドイツ語九月尽         宇田 蓋男	

○三段切れを効果的に使って一つの世界を表現している。「尽」が付く季語はいろいろありますが、「弥生尽」「九月尽」というのが伝統的な使い方です。三つの要素が入って、九月の尽いた雰囲気が出ている。


我もまた一風物詩紅葉散る          妹尾 題弘	

○おもしろい。「一風物詩」で「我」を「紅葉」に同化させた。


つぼきんは御食事処にわか雨         服部 修一	

○人生の重大事でも何でもないことをさらっと句にした。いわゆる「箸袋句会(その場を急遽句会にして箸袋などに句を書く)」などで点が入る句ですネ!でも、いつもこれではダメです。


いつからかすうっと運ばれ来て卒寿      徳永 義子	

○卒寿を軽々と詠んだ。よろしい。


秋燈の読めば膨らむ新聞紙          進藤三千代	

○分かります。新聞の内容が一杯詰まっている様子。「の」より「や」がよいのでは。


ルービックキューブしている芒原       岩切 恵子	

○芒原が決まっている。芒原の広がり、不気味な感じがする。「している」が叙述的ですが、「切る」ということは「述べることを切る」ということなんです。


金木犀言葉に少し嘘がある          末吉 道子	

○いただきました。少し華やかなところがある金木犀がよかった。


父の忌や蛇はけつして長からず        岩切 雅人	

○おもしろい。説明しがたい面白さ。蛇は長いものだということが念頭にないと書けない。


テラスを歩む同じ歩調の犬連れて       福富 健男	

○一番好きな句でした。何ということでもないことですが、実景として見えていい。抽象的な句でも見えてこないと腐ってしまうがこれは実景も見える。


除籍かな霧島連峰大茜            黒木  俊	

○娘さんが結婚でもされたのかと思いましたが、除籍というのは戸籍そのものが無くなることということだそうで、日常的なことではないのですね…。霧島連峰大茜、これはブランド品。


(進藤三千代記)

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