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第68回現代俳句協会賞は星野昌彦氏、特別賞は照井翠氏に決定

協会事務局 (2013年9月30日掲載)
 当協会は9月28日協会事務所に於いて第68回現代俳句協会賞の選考委員会を開催し、 以下のとおり決定致しました。今回は顕彰の対象を作品50句から句集に変更した初めての選考となります。
 なお、特別賞は従来の佳作や次席と異なり、受賞と同様の扱いで現代俳句全国大会の席上で表彰されます。
◇第68回現代俳句協会賞     星野昌彦(ほしの・まさひこ)『花神の時』
     〃     特別賞  照井 翠(てるい・みどり)  『龍 宮』

         youtube動画 照井翠氏「俳句で語る釜石?­震災当日から現在まで」日本記者クラブ

  星野昌彦 『花神の時』 自選五十句

  花神の時浴槽に首浮いてをり
  爺ら肩組めば矢鱈に桜かな
  死ぬまでは戦後乾きし花筵
  戦後からとびとびに来て桜かな
  溶接の火を噴く誰も彼もピカソ
  クリムトの馬動かざる春の暮
  富士山を見捨てて走る草野球
  死なば骨残る連翹花盛り
  桜蘂降る東北のこと語らざる
  凶年や瓦礫から蝶湧き上がり
  セシウムなど見えず巻き込む牛の舌
  殺されし牛へ繋がる風の途
  傘寿言祝ぐ紙屑籠に紙溢れ
  春の宵婆ら隠るるバスタオル
  眠る子の指緩みたる握り飯
  春眠や水漏れている保育園
  いづれ死ぬ金魚時々空気を呑み
  夏瘦せて馬に会ひたる峠かな
  麦秋や精一杯パン焦げてゐる
  昼の月石垣に蛇食ひ込みて
  「このアカデミック」崩れし蟬の殻
  痴呆すすむ首振つてゐる扇風機
  永遠は即瞬間や油虫
  鼠花火狂ふ少年らも狂ひ
  父の系図立て掛けておく蠅叩
  父の死後すこし躄りし陶狸
  夏椿死亡欄から読みはじめ
  河骨や婆は死ぬまで着ぶくれて
  電柱があれば爺寄る油蟬
  立葵とぎれとぎれし犬の尿
  真つ当に生きて汚れし羽抜鶏
  日々好日胡瓜は糠に埋まりゐて
  風立ちぬ厠から婆しぐれつつ
  怺へゐて時々は鳴くきりぎりす
  晴天続く東司に入りし草虱
  椅子浅く掛けて死を待つ鳶の笛
  無花果裂けどこかで母が呼んでゐる
  かりがねや海に出て行く隅田川
  傾きしまま削られし鰹節
  人生はおほかた虚構鉦叩き
  襟巻の狐おのれの尾を嚙みて
  水田や孤独に抜きし鷺の脚
  みんな晩年秋鯖の腸ひき抜かれ
  秋風や吸ふ時も鳴るハーモニカ
  一隅を得て寒がりし神楽笛
  きさらぎや叱られてゐる三河犬
  薄氷をかざして遠き昭和かな
  霜踏んで誰か故郷を思はざる
  はじめから雪溶けてゐる虚像かな
  花神の時宙に崩るるゆりかもめ


照井 翠 『龍 宮』 自選五十句

  喪へばうしなふほどに降る雪よ
  津波より生きて還るや黒き尿
  泥の底繭のごとくに嬰と母
  双子なら同じ死顔桃の花
  春の星こんなに人が死んだのか
  なぜ生きるこれだけ神に叱られて
  毛布被り孤島となりて泣きにけり
  津波引き女雛ばかりとなりにけり
  朧夜の泥の封ぜし黒ピアノ
  つばくらめ日に日に死臭濃くなりぬ
  石楠花の蕾びつしり枯れにけり
  気の狂れし人笑ひゐる春の橋
  もう何処に立ちても見ゆる春の海
  しら梅の泥を破りて咲きにけり
  牡丹の死の始まりの蕾かな
  春昼の冷蔵庫より黒き汁
  三・一一神はゐないかとても小さい
  唇を嚙み切りて咲く椿かな
  漂着の函を開けば春の星
  ありしことみな陽炎のうへのこと
  花の屑母の指紋を探しをり
  卒業す泉下にはいと返事して
  骨壺を押せば骨哭く花の夜
  屋根のみとなりたる家や菖蒲葺く
  ほととぎす最後は空があるお前
  蜉蝣の陽に透くままに交はりぬ
  初螢やうやく逢ひに来てくれた
  蟇千年待つよずつと待つよ
  同じ日を刻める塔婆墓参
  流灯にいま生きてゐる息入るる
  大花火蘇りては果てにけり
  人類の代受苦の枯向日葵
  片脚の蟻くるくると回りをり
  すすきに穂やうやく出でし涙かな
  鰯雲声にならざるこゑのあり
  柿ばかり灯れる村となりにけり
  死にもせぬ芒の海に入りにけり
  半身の沈みしままや十三夜
  廃屋の影そのままに移る月
  迷ひなく来る綿虫は君なのか
  雪が降るここが何処かも分からずに
  太々と無住の村の青氷柱
  釜石は骨ばかりなり凧
  寒昴たれも誰かのただひとり
  春の海髪一本も見つからぬ
  浜いまもふたつの時間つばくらめ
  亡き娘らの真夜来て遊ぶ雛まつり
  なぜみちのくなぜ三・一一なぜに君
  ふるさとを取り戻しゆく桜かな
  虹の骨泥の中より拾ひけり



句は現代俳句データベースに収録されています。


◇受賞者のプロフィール
◇星野昌彦(ほしの・まさひこ)
・昭和 7年(1932年)愛知県豊橋市生まれ(81歳)。愛知県豊橋市在住。
・昭和30年(1955年)内藤吐天に師事。
・平成 元年(1985年)「景象」主宰。
・昭和58年(1983年)第1回現代俳句協会新人賞受賞(後に現代俳句新人賞に改称)。
・昭和61年(1986年)第5回現代俳句協会評論賞受賞(後に現代俳句評論賞に改称)。
・句集に、第15句集『天狼記』他、評論集に『歴程抄』他。

◇照井 翠(てるい・みどり)
・昭和37年(1962年)岩手県生まれ(51歳)。岩手県釜石市在住。
・平成 2年(1990年)加藤楸邨に師事。
・平成14年(2002年)第20回現代俳句新人賞受賞。
・平成25年(2013年)第5句集『龍宮』により第12回俳句四季大賞受賞。
・句集に、『針の峰』『水恋宮』『翡翠楼』『雪浄土』『龍宮』。
 共著に『鑑賞女性俳句の世界』加藤知世子論執筆。
・現在、俳誌「寒雷」「草笛」同人。現代俳句協会会員、日本文藝家協会会員、高校教諭。

  ○選考委員氏名(五十音順)
桑原三郎、武田伸一、竹本健司、遠山陽子、前田 弘。(大牧 広、小檜山繁子両氏は欠席のため書面推薦)

○表彰式
平成25年10月26日(土)午後1時より東京・上野「東天紅」にて開催の現代俳句全国大会の席上にて。
*お問い合わせ 現代俳句協会事務局  電話03-3839-8190