現代俳句コラム

鉄を食ふ鉄バクテリア鉄の中三橋敏雄
 この句の句形で思い起こすのは、飯田龍太の「一月の川一月の谷の中」(第五句集『春の道』所収 1971年)だ。龍太の句が先だという指摘があるが、句集の出版時期で判断したもので、実際の制作時期は違う。『眞神』(1973年)の後記を参照すれば、掲句の制作年次は1966年前後になる。龍太の句は1969年制作である。もっともこの両句の場合、まったく意趣の異なる句であるから、制作の後先が作品の評価に影響しないことは言うまでもない。
 鉄バクテリアは、水溶性の二価の鉄イオンやマンガンイオンを酸化するバクテリアの総称で、土壌微生物の一種、と辞典にある。金気水の茶褐色の膜も酸化の結果である。作者はどういう場所で見ているのだろう。想像の世界とも読めるが、句から受けるゆるがない物質感を考えると、ここはやはり、どこからか漏れて澱んでいる赤茶けた被膜を見つめていると読みたい。作者はどんな心持が湧き上がって、この句を詠んだのだろう。鉄バクテリア自体は肉眼で見えるものではない。それを見ているのは、作者の意志の眼である。「食う」という措辞は、生きようとする意志を感じさせる。鉄バクテリアは鉄イオンの中で繁殖し、死んでいく。おそらく作者は、鉄バクテリアの在り様に、自分及び同胞である人間の姿を重ねて見ているのだ。自分も人間も、地球を食いつぶしながら地球に生きている存在だという切実な感概である。しかし、それは悲観的な眼ではなく、「食う」ということに象徴される、生きる意志の肯定である。人は生きなければならないのだ。悲観を通り越した眼のように思える。『眞神』の冒頭に置かれた句は、「昭和衰へ馬の音する夕かな」である。作者は、時代が大きく移り変わっていく、その音を聞いている。鉄バクテリアを凝視する、その眼で。
 
出典:第二句集『眞神』(『三橋敏雄句集』邑書林句集文庫  所収)
 
評者: 近藤栄治
平成26年10月11日

インターネット俳句会&ジュニアネット俳句会

爪立ちて開ける抽斗十三夜     
柚子の里
もう寝ます葡萄一房冷えてます  
つだみつぐ

インターネット俳句会「一般の部G1」高点句

得点番号俳句俳号
13790逆上り出来て木の実をこぼしけり菊鞠潤一
11736孑孑や異国に棄てし鉄兜高橋迂直
10243白桃や触れ合うたびに傷ついて福子
9489盲目の妹の手に書く今日の月景月
8703そろそろもまだまだも居て敬老会腰山正久
714廃校に残る記念樹小鳥来る菊鞠潤一
7288風紋は風の履歴書鳥わたる菊鞠潤一
7340新涼や鍬のくさびを打ち直す武衛門
71123天高し地球が丸く見える町遠藤甘梨
6704皆いつか居なくなります大花野平野悠里
6459鰡跳んで虫食ひ算の穴埋まる町野敦子
6184大阿蘇に鳴く虫の数星の数万里子
61294飛びついて掴む鉄棒天高し菊鞠潤一
61310ひまわり畑見て来て医師に戻りけり大塚正路
675郷愁はいつもこの頃鰯雲木田硺朗
5621秋風や海辺の墓は海に向きるいえ
5964言い訳は嘘と知りつつ秋扇昌司
5756新ジャガの少女のごとき臍を持ち高橋透水
5830神の旅ローカル線を乗り継ぎて吉原波路
5182片身づつ分ける齢や初さんま遠藤甘梨
551想い出の高さで舞っている蜻蛉健央介
5834夏終る洗濯ロープ伸びきつて菊鞠潤一
51162新涼や朝餉の粥の塩加減土田遼仙
595桐一葉ピクリと動く猫の耳岡眞
5572白桃や出口調査に嘘をつく木野俊子
51211土台ある限りは我が家月見草大塚正路
5262秀吉と名の付くキュウリ反り返るポラリス

インターネット俳句会「一般の部G2」高点句

得点番号俳句俳号
17450皺の手で鳴かせて洗う秋茄子あべまさはる
11430鶏頭やまつ赤な嘘の二つ三つ八木五十三
1044名月や屋根を寄せ合ふ漁師町陽優孔
9123もう寝ます葡萄一房冷えてますつだみつぐ
881教室に放心の子あり鰯雲植松半石
713桐一葉旧家は売りに出されけり杏子
7807満月に吸い込まれゆく観覧車ふたつの風
614八朔と名づけし猫と月見酒麻衣子
698桐一葉女の死ぬるときのこと新助
615野良猫の 居座るつもり 秋夕べ未来未来
620水澄むや繭を離れる銀の糸波雲
6650赤とんぼあやつり糸のあるやうに陽優孔
6623読み解けぬ碑文にゆれる萩の花竹庵
5641わらべ去り名月に照る砂だんご茂香女
5331散髪の鋏の音や秋の風文月 芯
5992秋出水禍を語りゐる国訛陽優孔
5219籐椅子の置かるる廊下風の道白兎
4684丸くても丸くなくても秋の月友好東庵
474山小屋は早寝早起き秋深しのらくろ
4317朝涼や会釈する人名は知らず今木卓弥
4729宅地化の波押し返す稲穂かな晴耕雨読
442刈り終えてまた人のなき棚田かな高林正
4245竹箒どれも磨り減り鰯雲松岡鳴々
476ひとりよりふたりさびしい秋彼岸 麻衣子
4109城跡や傘をたためば蝉時雨居竹棒
4626どの道を帰るも坂や金木犀丸亀慎太郎
431風ぐせをそのまま手向け草の花戸上馬子
4358墓洗ふあの面構え父に似るさぬき三休三
4750ひと皿に収まり難き秋刀魚かなけんG
4386転勤の最後の借家七竈舟三壺