現代俳句コラム

父の死や布團の下にはした銭細谷源二
 昭和16年に理不尽な新興俳句弾圧事件に巻き込まれた作者は、2年6ヶ月あまりの拘留生活を経て18年6月に東京拘置所を出ても世間の目は冷たく生活は困窮を極めた。「このままでは餓死するだけだから」との妻の助言を得て焼け野原の東京から終戦の一ケ月前に父母、妻、二人の子を引き連れて北海道開拓移民団の一家族として未知の北限の地十勝の豊頃村に足を踏み入れた。慣れない開拓労働と厳しい生活環境のもとで、たちまち高齢の父を失ってしまうこととなる。
 季語「布団」は冬の季語であるが、この句の場合は長患いをして敷かれたままの布団だ。死後、葬儀の準備をするために布団を片付けた時に下からお金が出て来た。しかもほんの「はした銭」なのだ。今の高齢者は年金もあるだろうし、死後のことも計画しての老後だろうが、戦後間もない頃の多くの老人は大変辛いものがあったと容易に推察できる。収入がない中でこれからどれだけ長生きをするかわからないことで手持ちのお金は出来るだけ使わないようにと、例え「はした銭」でも大切に寝ている布団の下に隠している。その場面が容易に想像できる。父を失った哀しみに加えて、当時の老いの問題、とりわけ一家挙げて開拓地に入っても自分は何もできないままにすぐ死を迎えねばならなくなった父の気持ちも考えたらさぞ残念だったことと思う。この句のあっけないほどの描写は、かえって長編小説のような物語を秘めている。
 この句は俳友の支援の下に昭和24年に発行されたわずか90ページ余りの旧漢字・鉛活字の紙質の悪い句集『砂金帶』に収められている。
 
出典:『砂金帶』
評者: 森野 稔
平成29年7月15日

インターネット俳句会

夏蝶を池の広さに見失ふ
橋本幹夫
シーソーを持ち上げている蝸牛
とんこつ

インターネット俳句会「一般の部G1」高点句

得点番号俳句俳号
1690雲水に一椀の黙夏に入る小川海童
11202梅雨晴間あした子宮をとることに唐九
10121戦とは忍び寄るもの沖縄忌百名温
10802白杖の人と風鈴選びけり直江一夫
9217金魚にもママの悪口一人っ娘昌司
9342哺乳瓶みるみる空に雲の峰ツルキジ
9137泡一つつつく金魚の日曜日宮本悠々子
9469君の嘘君の日傘のなかで聞く石田晴
8848言つたこと言はれたことも遠花火藤ゆきこ
8188手品師の飛べない鳩や沖縄忌仁誠
8839ぬっと出るじいちゃん色の毛虫かな
8721本流を離れ田水となりにけり京都冬竹
8969おしゃべりの速さで歩く白日傘重松築山
8538裸子は水のしたたる逃走者落猿

インターネット俳句会「一般の部G2」高点句

得点番号俳句俳号
17625打水を終へて女将の会釈かな鳩吹き
16376蕗煮るや姉妹で違ふ母の味きくさく
1358葉脈の隅の隅まで梅雨満つる港南太郎
1364ラムネ玉カラリと落ちて喉仏道楽
12280重責をさらりと羽織る夏背広明日香
1159シーソーを持ち上げている蝸牛とんこつ
1079赴任地は島の学校鯵を釣るかをり
108黒潮の先へ先へと鰹船筆歩
10107夕立の匂ひもこめて傘を閉づ結城蜜柑
8265麦の穂が風の形を教えけり十番地
830風船の消えた夏空只青く鮮夜
8779ごめんねと言いたいけれど水羊羹蔵之はじめ