講評 |
村井和一 5月の総投句数は、845句でした。会員の皆さん選句も大変だったでしょうが、それも俳句の楽しみのうちです。今後ともがんばってください。 今月は掲示板で類似句が問題になっていますが、以下問題がないと思われる高点句について感想を少し。
得点 句番号 作品 作者名 10 100 水攻めの如し代田の一軒家 森泉休 この句「田水張る城の如くに一軒屋 吉原正見」に似ているというご指摘がありますが、吉原作品は一軒家が城のようだと言っているのに対して森作品は水を張った田が一軒家を水攻めにしているようだと言っているわけです。いずれも直喩ですが、比喩の対象と観点がやや違います。ただこの程度の類似表現も作る立場からはできるだけ避けたいという思いはあるでしょうし、あっていいとは思います。
9 310 買はれ来て金魚の孤独はじまれり 冬さくら 高価で華麗であっても水槽の金魚に話し相手がいるわけではありません。金魚の孤独は作者の孤独を反映しているのかもしれません。
9 925 靴に入る砂もふるさと夏岬 悦馬 靴に砂が入ると不快なものです。しかし、それが故郷の砂であってみれば、その感触も懐かしいのでしょう。幼かったころを思い出しているのかもしれません。
8 144 噴水の先の一瞬無重力 亀山公一 噴水は水を噴き上げる高さに見所があります。その最先端が無重力状態になっているように見えたのです。作者の感覚的把握です。
8 671 春愁を背中で見せるゴリラかな てちゅろう 憂愁が背中ににじみ出るのは人間だったら当たり前かもしれません。檻のゴリラだから上の句が生きたのだと思います。
健康維持のためにどくだみ茶を飲む人は頑固者だと言ったら名誉毀損でしょう。しかし、この主人公かなり頑固で妥協を潔しとしません。「どくだみ茶」が頑固維持のために飲んでいるように見えるところがユーモラスです。
7 166 一本の道千本の桜かな とよこ 植樹された桜並木なのでしょう。見事な桜のトンネルが想像されます。
6 209 香水を一滴武装完了す 小原夕花 美しく着飾ったうえに香水。女性の武装だというのです。この武装で攻撃されるのは男性あるいは同じ女性? 批評意識が面白く出ています。
6 12 甘口と辛口カレー子供の日 義久 市販のカレーのルーにはよく甘口と辛口の表示があります。子供の日に作者はどちらを選んだのでしょう。家庭的な作者像が浮かびます。
6 385 ゆく春や小さき埴輪は膝をだく 久保すいせん 膝を抱いたかたちの埴輪。ぽつねんとして古代の憂愁をたたえているようです。 作者はその像にゆく春の思いを託したのです。
6 666 口癖は俺が先逝く鳥雲に 水茄子 男の方が女より平均寿命が短いので、夫婦の会話として、ご主人が「自分が先に逝くよ」といいます。実際には、個々のケースによって違うわけです。奥さんのそんなに「先に逝く逝く」と偉そうに言わないでよ、という気持が見えるようです。
6 10 中吊りを夏野に変へてゆく脚立 菊鞠潤一 電車などの中吊広告でしょう。係りの人が脚立を持って手際よく広告を変えてゆく風景に出会うことがあります。広告に夏野の風景。現代風俗です。
6 470 ためらいの跡も残して蜷の道 本田信美 水底に見える蜷の道。作者は蜷のためらいのあとを見出したのです。それは、作者のためらいを反映しているのかもしれません。微妙な心理を表現していると言えます。
6 540 花冷えや人それぞれの灯に帰る 諸岡季舟 花冷えの季節、帰宅を急ぐ人々には、それぞれの家庭の灯が待っていることでしょう。平和であればこその日常です。
6 579 葱坊主直立不動無表情 義久
葱坊主が直立不動なのも無表情なのも当たり前。しかし、そういわれてみると 次の段階で葱坊主が行進でもはじめそうに思われるから不思議です。これも一つの発見でしょう。
5 15 さようなら送るナースに初夏の風 大谷彰一 病気平癒、退院の風景。さようならと言って送ったのはナースでしょう。逆にナースをさようならと言って送ったと取れなくもありません。そこにこの句のやや不確定なところがあります。
5 204 少年の声バリトンに今年竹 耶馬渓石 変声期を迎えた少年。声が変わるともう子供ではありません。ここまですくすく成長してきた少年の肢体を今年竹が象徴しています。
5 917 五月闇留守番電話という拒絶 黒澤亜々子 便利なものと言っても、留守電で受けられるとあまり愉快ではありません。たしかに、相手から拒絶されている感じがするからです。
5 573 たかんなの空に明るき一処 鶴見遊太 筍の季節、竹林の中は鬱蒼として暗いものです。一箇所青空の見える明るいところがあります。今年竹はその空に向かって伸びていきます。
5 11 大の字で赤子泣くなり武者飾り 大岩龍門 端午の節句の武者飾り。その前で赤ん坊が泣いています。それも大の字に寝かされて。抱いてあやして泣き止めさせたほうがいいかどうかは、親の判断です。
5 640 棟梁の耳に鉛筆三尺寝 細川てつや 大工の棟梁が耳に鉛筆を挟んで仕事をしている情景をよく見ることがあります。 この棟梁、器用なことにそのまま昼寝をしているのです。職人さんの姿がいきいきと描かれています。
5 154 子供の日わたしにもいるトム・ソーヤ 小原夕花 自分の子供が「トム・ソーヤの冒険」の主人公のような悪戯好きで冒険好きの少年だというのです。明るい家族の声が聞こえるようです。
5 706 豆御飯妻には妻の育ちあり 閑人 豆御飯一つを炊くのにも家風というものがあります。この奥さん生まれ育った実家の作り方を今でも守っているのでしょう。
5 375 良き水を生む里に棲み花菖蒲 どんでん 名水が出る里に住むとはうらやましいことです。菖蒲の花の色もひときわ鮮やかなことでしょう。
5 783 燕の子マーマレードの朝がくる 宮沢子 「マーマレードの朝」という表現をどう受け止めるかでこの句の評価が変わりそうです。私は、透明感のあるマーマレードの色のような朝の光の中に、間もなく巣立ちを迎える燕の子の様子を想像しました。
村井和一の感銘句 462 フラココを大ゆすりして去る児かな 519 室内に男物干す薄暑かな 934 初夏や目が勇敢になってゆく
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