■投句一覧

1 雪吊りのてっぺんここは小石川
2 戦いを砂に埋めてこ恵方道
3 旧かなや草の実つけて生き上手
4 初春やぎょうざに羽根のはえてをり
5 左義長や竹の軋みが天をつく 
6 ふところに抱いて時雨の煙草吸う
7 精悍もいつか毛玉の冬木かな 
8 冬麗やおみくじの束おそろしき
9 電線にかもめ宙ずり出初め式
10 マスクして乾くを待てぬ修正液
11 極月や一日が一年母の老い
12 ポケットの拳をぎゅっと初日の出
13 実南天開運そばへ呼び込まれ
14 電工の腰にまつわる虎落笛
15 名を惜しむ辺境干潟の都鳥
16 五十年生きてひよっこ漱石忌
17 年賀状ポストをぽんと叩き去る  
18 鰐口を鳴らし鳴らして去年今年
19 冬木の芽みなみな天を指してをり
20 雪女おんなの前に出てゆかん
21 遠火事やお七に見舞いのメール打つ
22 寺閑か緋寒桜に雨おちて
23 四次元をストレーシープは恵方向き
24 初春や緋寒桜の健気なり
25 のんのんと八角時計寒を打つ
26 古稀過ぎて干割れほどよき鏡餅
27 着膨れて腹捩らせる靴のひも
28 桜島振動二回たまご酒
29 げんこつを綺麗に握り松の客
30 本当は君が好きです寒牡丹
31 着膨れを押して乗りこむ箱無言
32 初刷のどさりうれしき音のして
33 蝋梅の開けぬ落花憑いて来る
34 正気では水の沸かない寒ぼたん
35 N.Yが夜明けし頃に風呂にいる
36 たわむれに唐辛子噛んで震度3
37 夢始またも飛ぶ夢堕ちる夢
38 日を追って 値段の下がる シクラメン
39 冬薔薇作り笑いをしたあとの
40 年用意ひとりは宙(そら)のねじ締めて
41 野良猫の有刺鉄線より嚏(くさめ)
42 黄心樹の巫女しずしずと白草履
43 寒雀一寸跳ねて天地動く
44 底冷えや軸足どっち烏骨鶏
45 生きじめを喜ばれたる寒の魚
46 朝寒や茶筒逆さに振るいけり
47 両脇に猫をはべらし玉子酒
48 若水に太古の浮力縺れあう
49 夢追えば明日が遠くへ逃げて行く
50 黄落に路上くまなく笑いをり 
51 われをぬきゆくもの多し歳晩
52 煤逃げやスケッチ帖を携えて
53 父母は餅が溶け合う粥の中
54 去年今年眠らぬ街に人群れし
55 沢庵の重石愚直な型なす
56 年賀状だすひとだせぬひとのいる
57 青空が寒さを溜めて降りてくる
58 宝船本当は泥船かちかち山
59 成人日同床異夢の志
60 テロ二文字よりあらわなり冬かげろう
61 ときめきの顔があつまりポインセチア
62 木枯らしや後姿の君を追う
63 独楽を打つ江戸の地べたの現れて
64 ドナーカードは無記入のまま去年今年
65 平成も古びにけりな初明かり
66 福引きのはずれ飴玉初電車
67 運命線毬藻を乗せてどうしよう
68 わび・さびとおちあうあたり冬桜
69 寒月へとどかんばかり杉の鉾
70 外は雪藤村詩集読みかえす
71 荒星も幼なじみをぎゅっと抱く
72 盆栽の樹齢百年初日さす
73 冬鷺がモデル立ちする蓬莱島
74 日と川の捩れし呼応雪になる
75 涸れ川や空の青さを映さざる
76 雪の夜足跡残し酔虎行く
77 休日の仕事は遅遅と冬の夕
78 雪掻や一筋毎に背を伸ばし
79 思いきり背伸びしている年女
80 根深汁わからぬ妻や京育ち
81 男島より女島へ便り冬鷗
82 落葉焚知らぬ弁士の去りゆきぬ
83 駆けてきて乗ったばかりよ去年今年
84 木枯や小さき父抱き葬の列
85 新しき樏(かんじき)壁に避難場所
86 雨の夜は木菟とアクセス天地人
87 玄関に寒さ残して乞食去る
88 聖菓切るコーラスガール危険な夜
89 小舎の中老犬身震ひ初氷
90 立ち仕事 足から寒さ はいあがり
91 猫の子の目脂の固さ春隣
92 陽だまりの 梅ほころんで なお寒し
93 初明り迷へる子羊標見し
94 祭太鼓活断層の邑にかな
95 人日や鴉にじっと見つめられ
96 湯冷めした男に風の薄笑ひ
97 上水の堰音に覚め寒紅梅
98 サイレンはラヂオと思ひ日向ぼこ
99 挨拶もなくて白鳥帰りけり
100 もう無い世界まだ無い世界去年今年
101 本質の簡潔なるや冬木立
102 梗塞を三度乗り越え松飾り
103 初夢と問はれ見たとも見ないとも
104 冬帽子少しは若く見えるかな
105 結氷の蒼きしじまに漂いぬ
106 雪嶺のつと耀ひて暮れにけり
107 独楽まはし死にそこなうてゐたりけり
108 初風呂や娘二人を良しとする
109 「もういいかい」だれも答えぬ開戦日
110 その涙銀色ならむ雪うさぎ
111 言ひ出せば聞かぬ病み人牡丹雪
112 鬱憤を晴らすが如く咳聞こゆ
113 とんどの火燃えつつ黒き柱立つ
114 ハモニカが吹けた一人のひなたぼこ
115 リビングのべビーベッドも初景色
116 早々に孫泊り来て冬休み
117 窓の外ふる里の雪風の花
118 冬うらら犬の毛を梳き満ち足りる
119 寒紅や歌麿の描く唇小さく
120 短日やわが背後には砂の塔
121 枯菊や風は西高東低に
122 北風に開きのごとく腹を切り
123 バブル後の淡い歳月海鼠の斑
124 スクランブル長マフラーの捩れあう
125 鵙の贄(にえ)子規晩年の三十代
126 石垣の雲母がキラリ冬木立
127 彷徨す生死の狭間虎落笛
128 寒こだま鳩に肥満のないわけは
129 遠吠へにむつくり起きる冬の月
130 冬耕の父をそのままおいてくる
131 寒中の見舞ひ何より薬より
132 早梅の光のなかにひしめける
133 愛猫のまぐわひ何故か寂しけれ
134 子をあやす顔の可笑しき初写真
135 踏切に堰かれてなずな仏の座
136 寒行や槌音ひびく金閣寺
137 元旦の空は静かにいつもの日
138 望郷の句の無いわたし寒の月
139 霜の朝 突き抜ける空 雲もなく
140 舟が描き冬の陽が塗るモネの池
141 湯たんぽのギザが眩しいなんでも屋
142 シクラメン並べて観光土産売ってる
143 ルームキーポケットに雪ぶつけ合ふ
144 濡れている南の空に奴凧
145 よき向きに二人の肩や寒椿
146 恐竜のジャングルジムよ冬ざるる
147 母猫の帰らず朝の韮の花
148 空駆けるシャガールの馬春一番
149 雪晴れの眩しき町の客となる
150 三日はやパソコンの辺の乱れ来し
151 学童のかたまつて行く雪の朝
152 楪や褌一つ残そうか
153 元日の零時の空の真ん丸く
154 かの気球椿のやうに落ちて来し
155 熱燗やちゃんで呼び合うクラス会
156 病む友の訪れ来る冬日和
157 凸凹と平仮名ばかり賀状来る
158 一心に冬の太陽屋根を研ぐ
159 毛布踏む子猫は母を恋うらしく
160 秒針を掠めてわたる去年今年
161 初旅の気軽にあらずグリーン席
162 腕枕欠伸をひとつ春を待つ
163 嫁入りの角巻の色祖母と母
164 初写真威儀旅立ちの用意とも
165 新年だまたもささやかな妄想
166 朝練の熱き真白き息に会ふ
167 うつむいて足早に行く冬の暮
168 跪き引く抽斗や冬の底
169 ビニール袋半分呑んで堀凍る
170 鎌倉の小雪が似合う人力車
171 ティンパニー凍星まばたきしたような
172 欄干の柿彩わたしの胸の彩
173 側溝に枯れ葉寄り添ふ法の庭
174 島枯れて饅頭を蒸す老舗かな
175 炒られても田作きりり目を開き
176 初雪や朝日とともに丸く消え
177 矢の如く過ぎる時有り除夜の鐘
178 ジョン・レノンの忌雪掻いて頬染めにけり
179 不器用な人の固まり冬薔薇
180 霜降れば 小みかんの樹も 首傾げ
181 孫に屠蘇嗅がせやんやの我が家かな
182 梅探る里は一足先を行く
183 冬欅鬱の日はふと回り道
184 夢ならば寺田京子の冬ベレー
185 切山椒不惑の爪の紅色に
186 初山河大口開けてそぞろ神
187 大根のすや「生き方上手」とて
188 関節の音の鈍さや今朝の雪
189 聖夜終へ神仏崇め屠蘇雑煮
190 大寒の小川に水の笑窪かな
191 大根寿し身欠き鰊が意地を見せ
192 峡の子の肩上げ深き春小袖
193 青墨のコスモス余白あることも
194 黄絨毯酸香す実も踏み戦争イヤ
195 江の島を眠りに誘ふ冬の凪
196 鯛ほどの福を切り売り戎笹
197 うしろよりバイク近づく千葉笑ひ
198 初釜や人の人生手の甲に
199 一夜明けまた寒鮒を苛めをる
200 恋猫や地鳴りが三たび櫻島
201 寒の海夕日ひといろ加へけり
202 原色のピカソの絵あり初暦
203 道化師の後ろに回れば雪化粧
204 爪垢をかきだしたるは宇宙塵
205 幸せは耐えてこそあり冬至風呂
206 安達太良の朝湯朝酒おらが春
207 店内の狭きカーブの蜜柑箱
208 蝋梅に君子いささか艶めける
209 正月をぐるぐる廻し放り投げ
210 こざっぱり枯れた故郷や歯磨き粉
211 生きてゐる冬芽の兆し指先に
212 小寒の黒富士失せし細き月
213 あの山を駆け上りをり冬の海
214 初泣きを大泣きにまで囃すかな
215 寒星に舌突き出して種明かし
216 凧揚げやまず父親の走り出す
217 冬帽子連ねてぼくら逃走す
218 雪帽のてつぺん揺れる待ちぼうけ
219 繁華街きものが泳ぐ一夜かな
220 人日のあらジェット湯の日替りに
221 風花や馴染ばかりの縄暖簾 
222 階段を駆け下り電車に咳こぼす
223 四日目を引き締めてゆく救急車
224 わが不在補ふごとくシクラメン
225 三が日過ぎて女の深眠り
226 風呂敷からこぼれる自由花梨(かりん)の実
227 酒漬けの魂無垢に薺粥
228 陽だまりの 猫うらやまし 年の暮れ
229 引き込まれそうな仏壇拭始
230 柚子湯いる骨董売りの座りだこ
231 凍つ駅に錆びたコンテナ一つの眠り
232 雪だるま女の芝居おわるとき
233 宝石をそつと見てゐる雪女
234 焼き鳥屋裸電球煌煌と
235 初富士や見えつ隠れつバスの旅 
236 パソコンの気になり気になる風邪心地
237 明るい窓俺の顔見ている寒雀
238 子を産みし余力一気に大根引く
239 春昼や赤子は乳房(ちち)に埋もれて
240 電線に凧留まりしこの季節
241 大歳の青信号を渡りけり
242 高らかに禁酒宣言年新た
243 かすみ草シャンパングラス寒の紅
244 玄関に対の葉牡丹赤子泣く
245 一日十句大見得切るも初日記
246 鏡に映ったその顔が左を向いてる
247 人日の老いの有象無象を粥に炊く
248 この年の恵方はナビー大迷い
249 動かざる心を冬の箱眼鏡
250 ヰタセクスアリス紅さす寒卵
251 冬なずな骨太のっぽのかぞくです
252 初日の出拝すは午後の峡の宿
253 おいたちを話すつもりの成人日
254 冬帽子横目で見てるバス時間
255 人を恋い人を拒めり雪女
256 御降や旗の箱根路襷継ぐ
257 破魔矢持てマックの列のしんがりに
258 領海に水餅ひとつ沈めおく
259 元朝の手始めにのる秤かな
260 奇術師の神妙に割る寒卵
261 冬の月消せぬ思いが宙に浮く
262 平凡な静けさにいて寒牡丹
263 まんじりと句の産まるるを待つ冬夜
264 当番の夜警過ぎゆく大晦日
265 凍てている君の瞳と眉月と
266 貧すれば縮みし声に鬼やらひ
267 菰巻きやクリーム多めの二重あご
268 正直な言葉吐く人寒昴
269 言い訳をしても哀しき寒の紅
270 数え日に強き女となりにけり
271 超過勤務窓のツリーはクリスマス
272 冬銀河私と言う名の宇宙あり
273 天空を見上げる顔に鼻毛伸び
274 うかうかと遊び過ぎたり白すすき
275 雪沓の凍てて落ちくるオリオン座
276 またポスト覗いてしまい年賀状
277 精農の口伝諾ふ寒昴
278 父雲に載る元日の蒼い空
279 人垣の手締め豆餅ぶらさげて
280 野良猫の棲みつく札所冬ぬくし
281 単身赴任四角き寒さへと帰る
282 世間と縁切って一人の冬生きている
283 奥歯にものはさまったまま初詣
284 山茶花が点したような茶話をして
285 霊長目ホモサピエンス火を囲む
286 待春や二人でかじるチョコレート
287 遠き水鳥近き太穂の眼と曇り
288 西向きの稲荷末社の仏の座
289 教室の机の落書春日差し
290 見習の夜警が仕事晦日そば
291 足袋きよく爪まっ青に新成人
292 見晴るかすかの世この世も初景色
293 雪の夜のふとんに余る子の寝顔
294 わかれ道手袋の指 I Love You
295 終戦の寒夜生まれし希望の子
296 初夢やフロイトの書を読み耽り
297 風を切る ひっつめ髪の黒マント
298 打首かぽとりと落花寒椿
299 蝋梅や甲骨に浮く父の文字
300 彼方此方で難波商人戎笹
301 暦買う三重丸は介護の日
302 鶏の足跡こおりつつ明ける
303 初釜や二の腕強き大茶盛
304 冬林檎吾とてどっこいかすり傷
305 元朝や疲れし顔の露天商
306 夫婦月40年目年が明け
307 武蔵野夫人現れぬ寒林ひかげりて
308 風花の径にリルケのようなもの
309 書初や半世紀目のしずごころ
310 フレームの無き眼鏡何処まで冬田畑
311 子を叱るいつまでも声去年今年
312 冬の浜静まり鳶は夕支度
313 猫ひげ伸びて新年また通り過ぎ
314 冷え込むと母繰り返す御正月
315 シクラメン茎やはらかく屹立す
316 一本の冬木立ちたりすっきりと
317 国中の掏摸(すり)もポリスも初詣
318 すぎたこと さらりと流す みかん風呂
319 中締めの早くなりたり忘年会
320 饒舌な巫女の笑窪よ牡丹雪
321 三日はや荼毘の煙のすくと立つ
322 枯れ木山裸の付き合ひ気負なし
323 初富士を少し汚して雲行くかな
324 ポリープありとっくに甘いハウス苺
325 明日のなほ美しくある二日かな
326 あの梅から城めぐるだけの初恋
327 ペンギンも空を飛びたい冬銀河
328 霜柱おそるおそると踏んでみる
329 窓の露まず拭き取りて書に向ふ
330 木枯や寝癖の髪と目玉焼き
331 月光を束ねて凍る空凍る
332 初日拝光る私を見て欲しい
333 特大の菰巻く松の仁王立ち
334 冬の霧真顔の君に会うことも
335 山茶花の散りぬるをわが涎かな
336 面影を濃き寒紅に封じ込め
337 真実はいつも空白シクラメン
338 去年今年ぽつりと空きし父の席
339 吉田口河口湖口淑気満つ
340 ぞうきんを持ちて思案や冬休み
341 膀胱も破裂しそうや寒き夜
342 初春や東都の子等も膳囲む
343 大年もたちまち暮れぬ OFF-RAMP
344 御降りとして頂けり鳥の糞
345 B級映画が泣けるみぞれの博多港
346 妻逝きて山里に聞く除夜の鐘
347 涸れ川や日は天頂にありぬべし
348 真昼間の水面を返すかいつぶり
349 寒鴉新幹線のごとき顔
350 平野部に冷気を送る大氷河
351 しんしんと老いた二人の七日かな
352 廃屋の トタンに戯れる やせ落葉
353 七草やいきなりガス検針員
354 道端の地蔵に供ふ蜜柑かな
355 レトルト粥薺をうかす余白かな
356 暗き野に生くる証や息白し
357 マフラーの狐の顔の退屈に
358 メロディの出口網目の冬木立
359 冬鳥の翔つ影蒼く磧石
360 みかん咥えて遊ぶ鴉や坂の町
361 元朝や届きし汽笛いづくから
362 枇杷の花蔵に寄り添ふ隠れん坊
363 鱈の身の離れの良さや談笑す
364 知恵の輪がとけず一日しぐれおり
365 とろろすする生物兵器かもしれぬ
366 瞬けば雲に奪わる冬陽射し
367 極寒や星に迫り出す富士の山
368 答案の数字ぞろぞろ十二月
369 駅伝のよぎる林に青テント
370 飽きもせず盃傾けて去年今年
371 人日のリズムはロック菜きざむ
372 立ち話くしやみ一つに仕舞ひけり
373 無言歌の旋律に軋む終電車
374 冬茜裏庭の闇深くして
375 葱刻むあしたはあしたのこととして
376 おっとりを笑われているかじけ犬
377 ときめきの雪の小樽の切手貼る
378 毎日がせんたく日和石蕗咲きて
379 初富士へヤマトタケルは豁然と
380 寒紅梅新聞記者の一徹に
381 溢るるを命と思う初湯かな
382 蒼天に柏手放ち年迎う
383 冬うららロシア女の腕太く
384 冷たさやをんなの背中(せな)の暁闇に
385 抜けて来し肩の力よ冬木立
386 乾涸らびた都市の空より雪の華
387 鳥渡るうがい薬の苺色
388 黙し聞く涙の言葉暖炉かな
389 セーターを解くみたいな晩だった
390 葱ぬいて鎮痛剤が効きだしぬ
391 年の瀬にやっとオリオン座に気付く
392 梅探る腰には確と万歩計
393 鳥抱いて眠る大楠冬の星
394 大嚏拘(こだわ)りひとつ飛んでゆく
395 あばら骨のような雲抜け寒稽古
396 ほどほどの夫(つま)とゐるなり松の内
397 首筋に炎を這わすシクラメン
398 元日や我を捜しに野を歩む
399 小豆茹で湯気深々と淑気かな
400 松とれて富士は親しみやすくなる
401 病人の瞬きしばし小春かな
402 雪吊の虚空に縄を構へけり
403 空白の満腹感たり初日記
404 春を待つどこにでもある名の神社
405 冬苺ミルクに浸し仲直り
406 春菊の香り天まで届きたる
407 晴れのちめまい風邪ですか恋ですか
408 白菜温し慈悲の顔してすましおり
409 神楽衣装脱いで教師に戻りおり
410 葱巻いた小さき首の眼が光る
411 ぽきぽきと折って蟹食う木偶遣い
412 雑草が強く生きてる過疎の村
413 パソコンに向いしままに去年今年
414 短日や午後の図書館鎮まりぬ
415 鴎かもめ細波ははないちもんめ
416 十二月八日無数の靴並ぶ
417 みどり児を放りあげては初春(はる)の月
418 電線を伝ひて寒気入りきし
419 鳴り爆ぜる通夜の火鉢のくぬぎ炭
420 陽を曲げる山のホテルの凍てガラス
421 早春のガラスの分子跳ねている
422 どんど焼町内若衆意気あがる
423 初日の出去年のツケを背負ってる
424 冬の温泉一人でざあざあこぼして
425 なに聞ゆ縄文の跡雪の下
426 霜柱踏む音のみの夜警かな
427 空つ風お前はお前俺は俺
428 波立てば波の数だけ冬日かな
429 冬花火父はもともと好色で
430 ボール蹴る児等に冬陽の集中す
431 寒波来るトリックスターそれに乗る
432 迫り出した池の植木の下に鴨
433 デイケアが私のリゾート七草粥
434 冬ざれや湯呑を鳴らす匙の音
435 女礼者こめかみすでに日の匂い
436 人も樹も影絵寒霞の坂くだる
437 ケータイで煩悩を撮る除夜の鐘
438 プラトンの最期は毒死冬の雷
439 初売りの景気を探す顕微鏡
440 暖房車いきなり眉を描きはじむ
441 磯の香を届けて返す冬の鳶
442 冬の空地球の東より便り
443 飽食のあとに仰ぎし枯野星
444 小雪舞ふチチと鳴きつつメジロ舞ふ
445 獅子舞やわななく稚児をいだく祖父
446 回転すしの回る速さや小正月
447 冬の午後波長の合った君と僕
448 小正月ホ句の謎解く炬燵かな
449 道中双六品川宿でまだ遊ぶ
450 北風に突き当たりたるぶうめらん
451 みちのくの雪に包まる静かなり
452 赤城発の空っ風頬を平手打ち
453 五欲まだ眼許に残り日向ぼこ
454 寒の水五臓六腑を串刺しに
455 降り積もり太郎次郎が雪下ろし
456 母の介護に迷いなし寒椿
457 客を待つタクシーの無き御慶かな
458 生足の 吾子に靴下 大格闘
459 軒下にしゃがみしぐれの脚を追う
460 初刷の金正日と核・少女
461 日溜りや風花軽くまるく落ち
462 心てふ池の真中に寒落暉
463 何にも書けない日記よく燃える
464 大寒の日溜り安楽死めきて
465 風花や弱みを見せし人に恋
466 だるまさんが転んで雪を意識する
467 クリスマス街は若さを飲み込めり
468 待春の鳶の音に沿ひ片男波
469 良く拭いた鏡が仮面映し出す
470 冬の月亡き父語る母の顔
471 寒紅を引いて言い出す別れかな
472 しんしんと夢紡ぎゐる氷柱かな
473 喫茶店うとうとさせる冬の日よ
474 一針に思ひ足して春着縫う
475 繰り進む朝刊の音春立つ日
476 ハードルをいくつ越え来し柚子湯かな
477 草紅葉雨に輝く錦かな
478 ダンス教師時雨なか行くフリル傘
479 煩悩を消してゆくなり初比叡
480 ヤンママがお手本示す凧上がる
481 二日はや綻びを縫ふ糸切歯
482 たらびこの花に始る旅日記
483 餅膨れ昭和遥かと思いけり
484 元日や刀自は天寿を全うし
485 風避けて縦列並ぶ寒の入り
486 呼ぶことも呼ばれることもない寒九
487 腰痛の腰のあたりを雪女
488 初明かりホチキスとめる歳ひとつ
489 亡き父のよはひになりぬ春隣
490 寒月や心の丈の言葉得ず
491 榾火足す僕はどうにか生きている
492 冴ゆる夜や遮断機の音風に乗る
493 あるがまま瓶へ水仙活けもして
494 二日かな大往生というもあり
495 大根引く屁っ放り腰もよくばりも
496 良寛の「いろは」冬芽の赤らむに
497 束ねれば顔そむけ合う水仙花
498 かの事を問はず語りに日向ぼこ
499 病室に聞き耳立つや除夜の鐘
500 落ち葉焚く煙の中に逝きし友
501 冬木の芽♪のやうにきらきらす
502 初挽きのブルマンの香を送り出す
503 ちらし持つサンタの震え洋菓子店
504 虎落笛片耳とがる眠りかな
505 立春や猫の欠伸は般若の面
506 骨なきこと舞茸といまのおとこ
507 れるられるら抜きの会話初詣
508 蓮根の糸引く日なり道路族
509 父と子の本音ぶつかる息白し
510 死神の蝋燭折れて冬の朝
511 黄粉餅右耳だけで聞いてをり
512 一本の樹の千万の桜の芽
513 梯子の上に庭師二人や年装う
514 二人目の孫に譲らる歌留多取り
515 悔い淀む夢に開きし冬花火
516 今晩はいつまでぬくい炭火かな
517 初便りジジとババとをモデルにし
518 粉を吹いて市田柿このあたたかさ
519 ケータイの閃光多しルミナリエ
520 万両や灯れど暗き子規の家
521 俳縁というつながりの年賀状
522 幼子の「富士の首取る爺の雲」
523 寒林に記憶探して入りにけり
524 突然の別れを知るや冬の風
525 君の手の カップになりたい 冬のカフェ
526 洗顔の起床ラッパに日脚のぶ
527 仕事納めの後訪いくれし息子と嫁と
528 駅伝の試走立ちよる社かな
529 三日果つ木椅子に翳る白き猫
530 粉雪乱れベル鳴り響く夜の街
531 官能の扉ありけり雪景色
532 しもやけの耳の形も似て親子
533 無神なり滅多矢鱈と鰯食う
534 大声で問えば鯵(あじ)という魚
535 眉間の皺ゆるむひと言待ちわびて
536 綿虫や地球は大きな磁石です
537 山川に応えはじめの姫はじめ
538 雪晴るる大多摩川や鷺群しよう
539 白き息始発電車の客となる
540 竿振れば冬日一閃島暮し
541 積る雪仕事始めの気を殺がれ
542 おんなより男の胸や雪しきる
543 手つかずの杉山に雪クローンあり
544 短日やリハビリ励む友の笑み