カルチャー教室

研修通信俳句会

研修通信俳句会結果 「第25期・第1回」
Aグループ高点句
夏帽子ぬいで話に風を入れ     畑 佳与
 
ところてん言葉の棘が抜けてゆく  田中 充
 
おおいなる秋の落日樹木希林    服部近江
 
Bグループ高点句
冬瓜の中の山河を煮てをりぬ    荒井良明
 
髪切って耳より秋の風となる    梅井玲子
 
花野なら素直に好きと言えるかな  髙石まゆみ
 
Cグループ高点句
風景の半分は空秋ざくら      宮澤雅子
 
沈黙の詰まり過ぎたる石榴喰ふ   山本則男
 
点景になりたくて行く大花野    鴫原さき子
 

 

山本 敏倖 講師特選句
Aグループ
  向日葵やマーチだんだん恐ろしく   久根美和子
マーチ。行軍を想わせる行進曲。最初は心地良く聴いていたが、そのいつ果てるとも知れぬ背を押すだけのリズムに、だんだん恐怖を覚える。特異な感性。向日葵の明るさが、逆にマーチの不気味さを際立たす。
  日本列島こはれやすくて蟬の穴    畑 佳与
昨今の日本列島の現象(台風、地震、津波、原子力等)を言っているのだろう。確かに今すぐにでも壊れそうな感慨を覚える。季語「蟬の穴」の記憶が、底のない暗い穴の中を想像させ詩的。
  いとど跳ぶ壁にムンクの複製画    久根美和子
いとど、カマドウマの異称。壁にムンクの複製画がある。おそらくかの病的な死をイメージさせる、歪んだ顔の作品『叫び』の複製画だろう。その前をいとどが跳んだことで、複製画にもかかわらずムンクの強烈な世界に取り込まれそうになった、自身の意識を取り戻したのだ。不思議な感覚の句。

Bグループ
  ピリオドが打てず花野で鰓呼吸    おぎ洋子
日常生活の中で一つの区切り、ピリオド(終止符)を打てずにいる。何とか現在置かれているその情況を脱出したいと、秋の花の咲き競う野原でふつうの呼吸を止め、鰓呼吸に切り替えた。人間に鰓呼吸は出来ないが、そういう気分にさせるイメージの呼吸。
  冬瓜の中の山河を煮てをりぬ     荒井良明
冬瓜はウリ科の一年生果菜。果実は煮て食用にする。冬瓜を煮ている。それは冬瓜の中で育んで来た、来し方の山河の風景そのものを煮ていることになる。という詩的発見。
  秋灯に筐底さらし多弁なり      白岩絹子
一つの筐がある。その底を秋灯にさらし、何でもないことを相手に確認させている。「種も仕掛けもないのですが、実はこの筐は・・・・・。」と、手品師のように説明。秋の夜長、ついつい饒舌、多弁になっている。何でもないことを何かあるかのように見せる魅力。季語「秋灯」がその奥深さを象徴している。
 
Cグループ
  少女等の羽化しておりぬ大花野    鴫原さき子
少女等、等とあるから多勢なのだろう。その少女等が羽化している。少女が羽化することはない。しかしそう思わせる、蛹が変態して成虫になる、あるいは中国の神仙思想を想像させる変身があったのだ。秋の花が咲き乱れる大花野だからこその劇的イメージ。
  まるで乱婚火焔型土器曼珠沙華    吉岡一三
曼珠沙華にはたくさんの異称がある。曰く彼岸花、死人花、天蓋花等々。群生しているのだろう、あたかも乱婚しているようであり、外側に反り返った赤い多数の花が火焔型土器に見えた。比喩の巧みな把握。
  ヴィオロンの呟きに似て秋の空    河合秀美
バイオリンをわざわざヴィオロンと言う、その音韻の響きが詩的に作用。呟きとは、弓を用いずギターやハープのように指先で弦を弾く、ピッチカートによる音色のことだろう。その呟きに似た澄んだ秋の空。音と色と自然の織りなす一心景である。
 
松下 カロ 講師特選句
Aグループ
言葉が練られた巧句が多く読み応えがありました。
  爽やかに処方の薬捨てる朝      秋山貞彦
  願わくば花野に棄ててくれないか   矢野二十四

〈捨てる・棄てて〉が際立つ二句です。処方された薬をあっさり捨てる。ちょっと待って、と言うべきところですが、いっそおみごと!と拍手したくなってしまうのも季語〈爽やか〉の効果でしょうか。でも、お体大切に。
「願はくば」は西行の桜の歌「願はくは花の下にて春死なむその如月の望月のころ」へ向けて、秋草の咲き乱れる中に消えてゆくのも良いですよ、と語りかけているようです。
  花野あり地獄もありぬ茹で卵     矢野二十四
茹で卵と聞けば外せないのが西東三鬼の「広島や卵食ふ時口ひらく」。素朴な茹で卵はなぜか原爆や地獄、災禍と共に文芸に現れます。あの小さな白い形は突き詰められた人間の罪業なのか。名歌名句を織り込みつつ、詠者たちは花野に美しさと怖さを見ています。
 
 
Bグループ
秋季らしい散文詩片的な風合いの三句が強く印象に残りました。
  花野来て牛の涙に遭ひにけり     西村弘子
花野を遠く来てみれば、そこに待っていたのは潤んだ牛の瞳。花野は涙に出会うためにあったのですね。
  懸命に探してつひに花野とす     中野博夫
〈花野とす〉と言い切った下句が潔い。探していたのは人か物か、それとも形のない何かでしょうか。詠者はついに求め続けた場所にたどり着きました。懸命であったそのことが、きっと何よりも大切なことだったのです。
  幾つもの穴空に開け檸檬かな     中野博夫
小刻みな中七のリズムが青空にレモンイエローの穴を穿っています。シュルレアリスムの絵画めくグラフィックな魅力に溢れる一句。
 
グループには闘病中の方もある由。言葉は身体を支えますね。ご快癒を祈っています。

Cグループ
自分自身のことばで詠われた句、発想の良い句が揃っています。楽しく読みました。
  大花野馬は空から首を垂れ      鴫原さき子
馬の傍らに立つ目線に実感がこもります。詠われた馬は秋空の彼方から首を垂れ、大きく稀有な存在となって私たちを見下ろしています。まるで花野を造った創造者のように。
  乳輪の小さなしこり曼珠沙華     東 國人
杉田久女の知名句「われにつきゐしサタン離れぬ曼珠沙華」が浮かんできました。赤い花は女身となり〈乳輪〉の文字が濃く妖しく、小さなしこりは病変ともエロスの花芯とも受け取れます。凄艶な作品でした。
  単純なことばで足りる星月夜     宮澤雅子
きらめく星々のように無数の語彙の中から詠者が選び取った「単純なことば」。一言で通い合う大切な人の存在も感じました。〈足るを知る〉と言いますが、まさに自足するとは言葉を知ることなのですね。
 
(長谷川はるか報)
 

平成30年度(第25期)

全国の熱心な会員の作品交流の場として好評の「研修通信俳句会」は、2018年9月から第25期に入りました。

◎俳句会 通信(郵便)で隔月、年6回
 ・投句 毎回5句
 ・選句 毎回10句相互選
 ・講師 松下 カロ 山本 敏倖(五十音順)
 ・会報 毎回講師選評と互選結果掲載。
◎協会員のみ 定員100名程度(三組に編成)
◎期間 平成30年9月から一年間(お申込みは毎年6月~7月末)
◎会費 一期7,200円
◎行事 講師・会員が一堂に会する「特別研修会」年一回。
※添削指導はありません。互選による通信形式の句会となります。

スタッフ:宮崎斗士、長谷川はるか、茂木和子、小髙沙羅、栗原かつ代、鈴木砂紅、久下晴美、利光知惠子、植田いく子、芹沢愛子、磯部薫子