カルチャー教室

研修通信俳句会

研修通信俳句会結果 「第24期・第6回」
Aグループ高点句
字余りのようなふたりの夕端居    武田稲子
 
噴水の折れる他なき高さかな     岩成天風
 
フロイトもニーチェも無縁ヒキガエル 山浦恒子
 
不器用も器用もなくて水を打つ    越前春生
 
Bグループ高点句
レモン一個闇の密度を深めたり    西本明未
 
たましいを入れ替えている羽抜鳥   河合秀美
 
顔がこぼれています父の日の父    石井紀美子
 
Cグループ高点句
ひまわりや団地静かに老いており   梅井玲子
 
惜別の一張羅なり蛇の衣       吉岡一三
 
ここだけの話あふれるソーダ水    中島登志夫

 

 

岩淵 喜代子 講師特選句
Aグループ
  青桐や喪服まとへば喪の顔に    越前春生
「喪服まとへば喪の顔に」という、この何気なさそうな措辞の響きが、内容を増幅させている。葬儀のために、喪服を身に付けた瞬間の立ち姿が、折しも向き合った青桐の木を得て、一幅の絵画を成している。
 
  プールの子水引きずりてあがりけり 越前春生
水を脱ぐかのように弾みをつけてプールの端に全身を見せたときの、泳ぎ子の姿を捉えている。俳句は、一瞬の光景を写し取ることで臨場感が出る。プールの縁には、いま泳ぎ子から滴り落ちた水が広がっていて、真夏の青空が被さってきているのだろう。
 
  太平洋すっぽり入れて黒日傘    松本敬子
日傘の下を水平線の過っている構図が、モノクロ写真のように印象的に描かれ、詩情を醸し出している。

Bグループ
  草笛の耳をはなれぬ星月夜     福島靖子
昼間誰かの吹いた草笛の音を思い出したのだろうか、あるいはこんな美しい星月夜には、必ず蘇ってくる草笛の音があるのだろうか。何れにしても、物語めく光景が、星月夜の美しさを引き出している。

  白紫陽花鞠の中心灯るかに     川村智香子
紫陽花は七変化という呼ばれ方もするが、白紫陽花は最後まで白く咲く。その白さに引き寄せられて近づいてみれば、花の中心の明るさにも気がついたのであろう。この発見が一句を際立たせ、美しさを引き出している。
 
  余震なお野に麦秋の乾きあり    鴫原さき子
余震の不安、そのこころが麦秋の乾きと呼応している。麦秋が乾いているのは、何の不思議もない当り前なことなのに、余震と重ね合わせることで、不安が映像化された。
 
Cグループ
  筑波嶺の神へ目覚めの青田風    山口富雄
一面の青田、その真ん中に聳える筑波嶺は歌垣で知られた神を祀る山。そうした風土の背景があって詠まれた句である。神、目覚め、青田風の言葉の積重ねがいよいよ筑波嶺の姿を屹立させるのである。

  ひまわりや団地静かに老いており  梅井玲子
ひまわりは花の中でも大きな花で、その単純な形態も明るさの代名詞のような花である。作者は元気に住んでいた団地の人々が、老いてきたことを思いやっているのである。団地が老いるという表現も納得できる。

  涼しかり小さな順に靴干され    梅井玲子
ここにあるのは大小の靴が一足づつ揃えられて、順番に並び干されている光景である。「涼しかり」の季語がこの並び干された靴を幸福の象徴のように見せている。
 
 
川辺 幸一 講師特選句
Aグループ
  白玉や省略される父のこと     武田稲子
ご両親の法要を済ませた後の団欒風景と受け取った。デザートの白玉が内容に似つかわしい。ああだった、こうだったという思い出の中心は母のこと。父のことは添え物のように語られる。父に詫びているような気持ちがある。

  大向日葵エッフェル塔にあこがれて 小野 功
取り合わせがおもしろい。パリ旅行に憧れるのは向日葵でなく作者自身であろう。大きな景をおおげさに並べたて、さりげなく願望を潜ませる。発想を飛ばした大胆な作りがよい。

  褪せし色よきや老舗の夏暖簾    荒井良明
一物仕立てで二句一章。格調のある作品である。中七の「や」が効果的で暖簾を守り続けてきた歴史を伝える。京都や金沢の和菓子店や陶器店などが思われ、風に揺れる大きな暖簾が目に浮かぶ。
 
Bグループ
  たましいを入れ替えている羽抜鳥  河合秀美
滑稽なさまにも見える羽抜鳥をじっと見つめる眼差しを感じる。感得したものが「たましいを入れ替える」である。うまい措辞である。このように思うのは、生きものの本質を見極めたいという心があるからであろう。

  余震なお野に麦秋の乾きあり    鴫原さき子
余震と麦秋、うまい取り合わせである。余震に怯える毎日だが、眼前には刈り取りを待つばかりの麦畑が広がる。「乾きあり」に余情がある。地震の国、日本の原風景を見る思いがする。

  ゆりの木の花の坂道美術館     田口美喜江
軽やかなリズムがいい。名詞の他は助詞「の」で繋いだ表現に工夫がある。美術館への期待と浮き立つ気持が伝わる。ゆりの木は花がチューリップに似て、葉が半纏に似るのでハンテンボクとも言われる。

Cグループ
  繰り返す坂道ダッシュ雲の峰    中村 穂
夏季合宿の運動部であろう。若者の行動を見たままに述べて季語を据えた作りがいい。元気よくダッシュを繰り返す若者にエールを送るのである。炎天と高原の風、入道雲を描きながら、若者への羨望が交じっている。

  青芒むかし軍馬が征きました    吉岡一三
一面に広がる青い芒原を眺めながら、ここにあった牧場の馬が軍馬として出征していった昔を思うのである。散文のような表現だが、淡々した印象を与えて、懐旧の情が滲む。季語の効用であろう。

  白南風や扁平足のインソール    沼尻世江子
歳をとると土踏まずがなくなり、歩行に支障を来たすらしい。梅雨が明けて爽やかな風が吹けば出歩きたくなる。扁平足を矯正するインソールの靴を履いて出かけるというのであろう。意外なものをもってきた。俳句の材料はどこにでも転がっているものだ。
 
(長谷川はるか報)
 

平成30年度(第25期)

全国の熱心な会員の作品交流の場として好評の「研修通信俳句会」は、2018年9月から第25期に入りました。

◎俳句会 通信(郵便)で隔月、年6回
 ・投句 毎回5句
 ・選句 毎回10句相互選
 ・講師 松下 カロ 山本 敏倖(五十音順)
 ・会報 毎回講師選評と互選結果掲載。
◎協会員のみ 定員100名程度(三組に編成)
◎期間 平成30年9月から一年間(お申込みは毎年6月~7月末)
◎会費 一期7,200円
◎行事 講師・会員が一堂に会する「特別研修会」年一回。
※添削指導はありません。互選による通信形式の句会となります。

スタッフ:宮崎斗士、長谷川はるか、茂木和子、小髙沙羅、栗原かつ代、鈴木砂紅、久下晴美、利光知惠子、植田いく子、芹沢愛子、磯部薫子