講座・句会

全句講評講座

宇多喜代子全句講評in東京多摩

 
  日時 平成27年10月17日
  会場 立川市子ども未来センター
 
 当日は、三八名の受講者が予め提出した各自の二句について宇多先生にご講評を頂いた。
 
<受講者の一句>
  万緑や光陰喰らふ鯉の口       稲吉  豊
  大小の梯子自在に松手入れ      長野 保代
  八月十五日英霊は疲れてる      紺谷 睡花
  やんわりと羽交い絞めする残暑かな  蓮見 順子
  八月の水飲みに立つ影の人      蓮見 徳郎
  棚経や脛にざらりと畳の目      吉澤 利枝
  しゃぼん玉そんなこんなを風に乗せ  藤井 みき
  思ひ出を娘に譲る紺浴衣       宇賀いせを
  下思ひは闇深きほど蛍の夜      水野二三夫
  深海の父の絶筆浮いてこい      抜山 裕子
  国憂う語りたりないあめんぼう    西前 千恵
  隠しごとひとつやふたつ冷奴     関   梓
  姉妹とは見えなくたって水蜜桃    佐々木克子
  放埒な水を束ねて下り簗       越前 春生
  沖縄忌野ざらし耳をそばだてて    岡崎たかね
  余花胎に落ち歌人となりにけり    柏田 浪雅
  月の夜にベースのエチュード蟾蜍   河  順子
  ちっぽけな自我置いてくる花野かな  徳山 優子
  水匂う六月浅く腰掛ける       山崎せつ子
  おおかたは日にち薬で心太      高坂 栄子
  皀莢の如く生きたし水菜食む     奥野 亜美
  大杉の裾に絡むや蔦紅葉       夏目  美
  凌霄花笑って笑って涙ぐむ      宮腰 秀子
  飛魚の群れ飛ぶいまや海光る     豊  宣光
  砂日傘遠くに核の雲の形       栖村  舞
  夢の中死者と桃食ひ昼寝かな     浮貝 早苗
  こおろぎの腹あたたかく摘ままれる  高野 公一
  しんしんと夜を育ちゆく一夜茸    中條 千枝
  踊りの輪抜け風入れる身八ツ口    山本恵生子
  秋蟬のはじめと終りしづかなり    秋山ふみ子
  湯布院の千年杉の梅雨すだれ     西   遥
  銀鱗の跳ねる川面よ秋夕焼      山口 楓子
  ちちろ虫話し相手の欲しき夜     大友 恭子
  銀河冴え優しい言葉の二ツ三ツ    辻  升人
  お言葉に推敲のあと終戦忌      永井  潮
  夏過ぎて老人風鈴扇風機       戸川  晟
  愛って氷なんだ融けて無くなる    網野 月を
  人生はふとあたたかしおでん酒    吉村春風子
 
 以上の総括として、俳句は十七音ではない、五七五である。「切れ」には説明を切るという働きがあり、「ひらがな表記」には意味を逃がしたり、和らげる働きがある。これらの働きをうまく使えるようになることが、俳句上達のコツである。とのコメントを頂いた。
(吉村春風子記)

 

池田澄子全句講評講座

 

日 時   平成27年8月9日(日)13:00~17:00

場 所   横浜市社会福祉センター

参加者   投句 33名  当日出席者 33名(講師・事業部長を含む)

  百合の香やマリアの受容美しき 藤本 博夫
  哲学をしてゐる猫か恋猫か 青木恵美子
  薄幸の女の咲かす大向日葵 大垣鹿乃子
  梅雨兆すここにもあそこにも空き家 畑  佳与
  音たててざるを一枚神田祭 劒物 劒二
  全身で聴く夏蝶の骨の音 吉田香津代
  蛍火や幾千億人生れ逝きて 佐々木重満
  猫よぎる団扇の骨が柔らかい 桐山 芽ぐ
  羽抜鶏ひとの話を聞いてをり 川村 研治
  夏まつり訛一緒に跳ねており 加賀田せん翠
  消息の未だに蟬の穴のぞく 山老 成子
  蚊にさされ一瞬風の止みにけり 佐分 靖子
  忘れ得ぬ名が君にあり花氷 矢吹えり子
  知りあいのように来るなり鬼やんま 福原 瑛子
  今日の汗質草にする明日の生 川島 進一
  原爆ドームに迷い込みたる白い蝶 尾崎 竹詩
  僕達の未来何色鰺開く 平佐 和子
  白木蓮おいてけぼりの夜なりけり 中山 妙子
  春の雪この手離せば日本海 小関 邦子
  神域に足踏み入れて楠若葉 吉田 功
  子ら遊ぶ噴水マリアのゐるやうに 福田 洽子
  原爆忌となりは睫毛修正中 川村智香子
  化かされて今が在るかもサングラス 渡辺 順子
  物憂げに五月海馬は磯臭し 芳賀 陽子
  沖縄忌みんな誰かの宝もの 田中 悦子
  噺家にはじけし後の鬼やらひ 鵜飼 教子
  耳少し見せて髪切る更衣 江原 文
  なぜなぜといふこと増えて蟹動く 渡辺 照子
  薫風や無臭の宮司とすれ違う 田畑ヒロ子
  弾力の衰える音紙風船 稲葉 喜子
  つくし千本戦争が目覚めそう 広瀬 元幸
  座禅草きげんの悪き雨ばかり 中岡 昌太
  出入り自由螢袋は妣の部屋 相川玖美子
  風鈴や夜を流している蛇口 平佐 和子
  しゃぼん玉割れ戦など嫌いです 中岡 昌太
  片陰は糊代ほどの故郷なり 矢吹えり子
  ほうたるの届けし生命手に受けん 川島 進一
  穂麦一本活けて己の芯決まる 広瀬 元幸
  藍甕に泡生まれる桜の夜 尾崎 竹詩
  ベランダに茄子はんなり居候 山老 成子
  紫陽花や百の魂うろたえて 小関 邦子
  袋角座り疲れた盧舎那仏 中山 妙子
  筍のゑぐみは父の小言めき 大垣鹿乃子
  鳥居から帆船見える夏の空 吉田 功
  流線形の里の渋柿子ら減りし 福田 洽子
  万緑をダウンロードの流れかな 吉田香津代
  風鈴のなごりの音をこぼしけり 加賀田せん翠
  次の間のまた次の間の雪をんな 川村智香子
  この土の下から蝉が出てきます 川村 研治
  夏ひばり空の時間差引き寄せて 渡辺 順子
  冬帝が二泊三日で来るといふ 青木恵美子
  愛という錯覚もあり病める薔薇 芳賀 陽子
  散骨し戒名不要蟬しぐれ 劒物 劒二
  誰が化身夏蝶一頭従き来るは 田中 悦子
  やっと坐ったのに熊蝉が急かす 佐分 靖子
  とりどりの薔薇それぞれの香りかな 畑  佳与
  乾杯のグラスを空へ白木蓮 鵜飼 教子
  イヤリング片方失せて瑠璃蜥蜴 江原  文
  草茂る中は虫らのシャンゼリゼ 相川玖美子
  轟音や十字花根を深く張る 渡辺 照子
  使い切れないハンカチーフをどうしよう 桐山 芽ぐ
  梅の実は今15歳を通過中 田畑ヒロ子
  ピチカート空に吸われて夏終る 藤本 博夫
  ものの芽やあしたはもっと光りたい 稲葉 喜子
  夏霧や誰が最初に音をあげる 福原 瑛子
  源五郎宇宙飛行士の夢ありて 佐々木重満
 
 

宇多喜代子全句講評講座

                         

開催日 平成26年月4月13日(日) 

主 催 愛媛県現代俳句協会

会 場 松山市立子規記念博物館

投句参加者40名投句数80句

 
 愛媛県現代俳句協会では、活性化の一環として宇多喜代子特別顧問を講師に迎え、全句講評講座を開催した。
 参加者は40名80句。この全句を限られた時間に優しく時には厳しく丁寧な講評を頂き有意義な講座となった。講座の後、場所を移して宇多先生と中村事業部長を囲み懇親を深めた。
 
 以下に全句講評を紹介する。
 
更地なる広き寒さの宝厳寺          郷田喜久江
 〇状況説明になっている。広さ寒さで更地は分かる。  
歩いても座しても無為となる遍路       三好真由美
 〇何をどう書くか。となるは考え方で言わなくて良い、作者の言いたいことが弱点になる。  
病みて知る夫のまこと梅ひらく        片岡寿子  
 〇名詞止めにするほうが良い。ひらくはだめ。  
春泥のはや輪郭を失なえり          藤田敦子  
 〇これは良い。  
初夢を忘れて五日廊下拭く          武智かおる  
 〇忘れての「て」が気になる。ないほうが締まる。  
さよならを言うのは私桜散る         窪田圭子  
 〇さよならの説明になっている。マイナスの言葉を重ねない方が良い。  
涸川にわが身を雲も消えしまま        本郷和子   
 〇涸川にの「に」が気になる。  
父だけ冬眠中の吾娘の口           和田幸司  
 〇娘で良い、吾娘は俳句でしか使えない。よく分からない。  
寒の入り抱き合う喜寿の同期会        藤田ユリ子  
 〇寒の入りに何の意味があるのか、効いていない。もっとすっきりした季語にするべき。  
目刺焼く村一番の子沢山           小木曽富美子  
 〇散文的な句は季語をさらっとしたものにすると良い。  
待っている受験を終えし娘にカレー      金並れい子  
 〇待っているまではいらない。  
なの花が車窓に続くすぐ我家         乃万美奈子  
 〇なの花は漢字で書く。なの花がの「が」はよくない。  
誰がための褥でしょうか散山茶花       玉井淳子  
 〇散山茶花という言い方が問題。  
鳥拗ねて砂嚢にためる春憂い         松本勇二  
 〇凝り過ぎているが鳥拗ねるは面白い。春の憂いが良いのかどうか。  
大脳のかれるがままに座禅組む        大野美代子  
 〇大脳より木が枯れるほうが良い。そうすると季語も入る。  
野火を打つ身を焦がすものなくしてから    梅岡ちとせ  
 〇テーマが二つある。野火を打つを簡潔にいう。  
立春や大志抱けと檄飛ばす          宮田頼行  
 〇檄飛ばすいらない。説明になっている。申し述べないこと。  
枯木には背負い切れない過去がある      相原左義長  
 〇枯木と過去はつきすぎ。があるはいらない。  
水菜洗う言いたい事を水に流し        徳山栄美子  
 〇くどい言い方。重いことは軽く言ったほうが良い。  
嬰児の臍より春の匂いする          秋山豊美  
 〇一元俳句です。このままで良いです。  
手千切りの餅の花から母の声         村上洋子  
 〇思い出している句。餅が花なのがなつかしい。  
枇杷の花弱音を吐かぬ母だった        村上清香  
 〇主張しない季語である枇杷の花が効いている。これで良い。  
拝礼したき蕗の薹の石頭           三好靖子  
 〇石頭は頑固者のこと。言い過ぎ。  
あんなことこんな日のことおでんの灯     稲荷光乃
 〇良く分かります。これで良い。
石蹴れどむかし戻らず遠霞          安 悦子
 〇遠霞とむかしがつきすぎ。季語が遠いイメージなので替える。
霜柱たとえ話に阿蘇の牛           松本 豪
 〇イメージがぶつかって大きな景が出てこない。季語を替える。
雀の子三羽爺にむとんじゃく         三好照子
 〇爺さんとはこんなもの。まあ面白い。
受験子へ禰宜は衣を正しけり         中路久江
 〇良いです。
囀りや今言いし事もう忘れ          丸木美津子
 〇体験している句。良いです。
春立つ日ヘモグロビンの数値良し       小野千秋
 〇春立つが良しにつながるので良しはいらない。かなで止めるとなお良くなる。
首掴み下ろした所冬菫            和田幸司
 〇何の首かがわからない。猫なら猫を入れる。
明日死なばこの凍蝶を形見とす        安藤和子
 〇幻想の中の凍蝶だと思います。良いです。
春愁や少し優しくされてより         梅岡ちとせ
 〇よりは時間の経過、いてでも良い。
人懐っこい笑顔をもらう犬ふぐり       山内崇弘
 〇一元句です。よく分かります。
緋袴の裾にはんなり牡丹雪          小木曽富美子
 〇はんなりは説明でいらない。
火の鳥や積もれど積もれぼたん雪       松木ヒサ子
 〇どがいらない。
冬夕焼総身に浴びて立ち尽す         塚本幸子
 〇てはいらない。俳句は切れ味が魅力。
流氷や亡兄と巨鯨が鳴き交す         松本勇二
 〇面白い景であるが、亡はなくて良い。
春立てり介護保険と睨み合い         村上洋子
 〇睨み合いがストレートすぎるがこれはこれで良い。
冬の夜や泣きたい過去あり泣かずゐる     乃万美奈子
 〇このままで良いが、過去ありを過去ににして七音にしたい。
雪が来ていつもの山の鋭角に         相原左義長
 〇出来ています。これで良いです。
震災の記憶を繫ぎ柊挿す           丸木美津子
 〇すんなり出来ています。これで良いです。
梅開花ちらつかせおり戦いを         村上清香
 〇戦いがわかりにくい。上五と中七が別物です
ひきしまる力の赤し牡丹の芽         三好靖子
 〇赤しは赤きに。説明的なところがある。
日脚伸ぶ三番線にワンマンカー        松本 豪
 〇これはこれで面白いが、こうい言う句が並ぶと退屈になる。
草萌えや信じた道を生きるのみ        新宅美佐子
 〇思いが出すぎている。違う表現をする。
北風が遊ぶ道掃き両隣            小野千秋
 〇がをのに替えると口に乗せた時に違ってくる。
薄氷を踏みゆく今朝のスタッカート      近藤亜沙美
 〇子供は必ず割っていく。これはこれで良い。
継ぎ張りの途絶えし障子孫来たる       中岡久江
 〇障子を主語にしたほうが良い。孫来たるはいらない。
麦の芽で少年磨く村でした          門屋和子
 〇でしたがなかったら面白いがこれで良いです。
島四国遍路の鈴にうめ匂う          相原澄江
 〇うめは漢字で書く。風匂うぐらいが良い。
余寒なほ形ばかりの清め塩          安藤和子
 〇形が出来ていてこのままで良いです。
探梅や色無き地球をただひとり        岡田初音
 〇中七の言い回しが難しい。ただひとりが甘いかな。
波は静かに打ちつけるもの冴え返る      山内崇弘
 〇冴え返るが取って付け。安易に季語を付けるのはおろかなこと。
寝しずまるころ煮凝りのはじまるころ     三好照子
 〇時間の温度差が出ていてこれで良いです。対句表現も面白い。
春隣柱に残る娘の背丈            稲荷光乃
 〇娘を子にしたほうが良い。
美しく果てんと真白冬芒           安 悦子
 〇意気込みを感じられて良いです。
こみあぐる大地の息吹蕗の薹         秋山豊美
 〇これで良いです。
父と娘の部屋を入れ替え明日節分       武智かおる
 〇事柄を述べているのだからこれで良いです。
蠟梅の自我の融けだす日和かな        藤田敦子
 〇自我ととらえた主観が良い。
亡き母と川を隔てて花愛でる         片岡寿子
 〇亡きは不要、川を隔ててで亡くなっているとわかります。
ぢゃれ猫の胴伸びきって春日遅々       相原澄江
 〇猫好きな人にはたまらんでしょう。良いです。
くくたちのように人立つ埋立地        加根兼光
 〇分かりやすい喩えです。これで良いです。
先頭になると振り向く夫へ春         門屋和子
 〇夫へ春でよくなっている。おだやかさが出ている
薄氷の流れるように人逝けり         大野美代子
 〇比喩が上手い。良いです。
保守的な活断層に春の雨           近藤亜沙美
 〇難しいことを穏やかに書いている。良い句です。
春の野に童心預け早八十路          宮田頼行
 〇面白くて良い句だが路はいらない。早八十で分かります。
春昼のマチカネワニに指五本         加根兼光
 〇春昼が良い。大阪で出たワニの化石を持ってきたことも良い。
早春が駆けるわが町わが狭庭         徳山栄美子
 〇主張のない句をさっと作っている。当たり障りのない句。
外は雪札幌土産の白いチョコ         新宅美佐子
 〇名詞は省略してはいけませんチョコレートと書くこと。白はいらない。
春眠の出口とてつもなく寂し         玉井淳子
 〇これで良いです。
マリア像轍の水へ春兆す           松木ヒサ子
 〇マリア像が突飛ですが、これで良いです。
源流に沿う棲家なり雛飾る          金並れい子
 〇これで良いです。
箸置きはガラスのリボン花の夜        岡田初音
 〇ちょっと華やかで夏が来たような感じはある。これはこれで良い。
眠りは死夫の声聞くおぼろかな        藤田ユリ子
 〇おぼろとは自然現象のことです。季語として読みました。
大晦日行けば笑顔を見せる姉         塚本幸子
 〇行けばと会えば違いを考えて欲しいがこれはこれで良いです。
紙風船言葉吹き入れ君へつく         本郷和子
 〇若々しい句で良いです。
一村の春の音とは水の音           三好真由美
 〇これは良い句です。
年度末なくした指輪探さない         窪田圭子
 〇年度末でけりをつけたい気持ちがよく分かる。探さなくて正解。
草笛や目立ちはじめし喉仏          郷田喜久江
 〇母のほっとした気持ちが出ている。このままで良いです。
(記 和田幸司)
 

「みやざき現代俳句の集い・安西篤全句講評講座の記録」

開催日時 平成25年7月13日(土)
主催宮崎現代俳句協会
会場 宮崎市ひまわり荘

 「みやざき現代俳句の集い」の一環として「全句講評俳句講座」が開催され、講師の安西篤先生が参加者82句全句を精力的に丁寧に講評された。また特選・秀逸の作者十名は近著『秋の道』と色紙をいただいた。なお、安西先生は、選句の視点として「風土色が詠み込まれている」、「現代人の精神風景が詠まれている」の二点を上げられた。
 さらに先生には全句講評のあと約一時間「三・一一以後の世界と俳句」と題して講演をしていただき、充実したひとときだった。
 以下全句講評を、五十音順に紹介。

鬼蓮の蟇と一体ご縁かな          阿辺一葉
○ 風景としてよくある。句としては出来ている。
赤子愛づ猫は梱包の憂き目なり       阿辺一葉
○ 「赤子愛づ」は説明っぽい。「初孫や」など。「梱包」は酷い。ケージに入れればよい。

ニセアカシア猫の滞空時間かな       石田順久
○ 「滞空時間」はムササビなら。猫ではちょっと難しい。―ビデオに猫の―とか。
十薬のその十字花を妻にかな        石田順久
○ 妻に対する誠意があるが、「十薬の十字花」は貰って嬉しいか?安直である。
 
紫木蓮ほどよく咲いて午後のお茶      井上英子
○ 年老いた夫婦の静かな午後。程良く咲いた紫木蓮が静かな時間のささやかな幸福を表している。
曖昧に過ぎ行く日数五月雨         井上英子
○ 「五月雨」が今一歩。生活感のある「菜種梅雨」などが強い。

梅雨に入る住所証明取れぬまま       岩切雅人
○ 「梅雨に入る」が必ずしも決まらない。焦燥感が欲しい。「梅雨日照り」など。
唯我独尊などもたまには蛇おはやう     岩切雅人
○ よくわからない。飛躍はある。

刃こぼれとは先頭ランナー濃紫陽花     宇田蓋男
○ 「とは」のこだわり。上五・中七が説明っぽい。季語はそこそこついている。
午前零時の地球の明るさ蚕豆をむく     宇田蓋男
○ 日常の農作業と午前零時の奇妙な明るさの取り合わせが良い。

茹で麺に青柚子透かし里訛り        大浦フサ子
○ 同質感の言葉が連なりすぎだが、実感が良く出ている。
太陽のふと滑らした緋のマンゴー      大浦フサ子
○ 地域の名産を捉えている。太陽の恵みや赤味・つややかさの質感がある。太陽の光を讃えている。

私の自由に乾杯アマリリス         小倉櫻子
○ 散文調の率直な生命賛歌に最終的に共感。程良い華やかさがある。「自由へ乾杯私のアマリリス」の並べ替えも。
虞美人草女(ひと)盗むにはあらねども    小倉櫻子
○ 「虞美人」が付きすぎ。言い得ているか?

乱舞の紋白蝶の対角線           海蔵由喜子
○ 幾何学的構成で影像にした。構成だけ。
鹿のまり糞踏み損ないし春りんどう     海蔵由喜子
○ うまくできているが、「春りんどう」が動くか。他の花や「土筆原」などは?

筍を剥いて深入りかもしれぬ        梶原敏子
○ 心の通い合い。思い入れが深みにはまる感じ。人間の心理。
茶摘唄途切れて指の茶葉と化す       梶原敏子
○ 茶摘み作業に集中。日常風景の機微を捉えている。

青葉騒クジラを連れて師の句碑へ      河原珠美
○ あいさつ句。こういときには採っておくかという句。
どこまでも立夏の森に迷い込む       河原珠美
○ 「立夏」では物足りない。「孟夏」など。

炙られて空豆やつと目の覚める       岸上玲子
○ 擬人効果が巧み。子供の姿のようによく捉えている。
あじさゐや更年期とはつゆ知らず      岸上玲子
○ 「あじさゐ」と「更年期」の配合はそこそこ。「つゆ知らず」は自分の感覚を書いていく御婦人の心理。

相席の少年黙礼花みずき          倉田玲子
○ どこにでもある花だが清潔感が少年の黙礼と響きあう。葬儀のような密やかしめやかな感じ。
花ふぶき宙を踏んでる喪の草履       倉田玲子
○ 普通の感じで大事な人の葬儀。「宙を踏んでる」に思い入れの深さを読めるかがポイント。
 
照葉樹林風の航跡発光す          黒木 俊
○ 吹き抜ける風。類型があるか。「風の航跡」はかなり大きく捉えている。
ギギとばかり脳幹褶曲蝮の朱        黒木 俊
○ 脳の構造を描写した句か、「ギギとばかり」がピントくるかどうか。

バラソフト子供の列に並び買う       後藤ふみよ
○ 高級ゲームソフトを買わんと子等の列に付く。世相かしれないが通じるところがある。
木戸押してカラスおとなう立夏かな     後藤ふみよ
○ 見たての面白さがあり、「カラスおとなう」が何とも滑稽で立夏感がある。

新麦茶白き日照りを飲み干せり       嶋本 功
○ 「白き日照り」これが良くない。当たり前。
バイク音新緑抜けて影深し         嶋本 功
○ 「影深し」がダメ。「新緑を抜け夏を駆け」など

スニーカーの僧の足早額の花        清水睦子
○ 現代の坊さんの奇妙なアンバランス。現代の風俗。「額の花」―きちんと形の出来たとりすました花―との取り合わせ・配合の面白さ。
万緑や鴉は声を低くせる          清水睦子
○ 「万緑や」に威圧感があり、圧倒されて「声を低くせる」が中々ののもの。別の角度からうまく捉えている。

肺胞の一つ一つに薔薇の花         鈴木康之
○ 影像それ自体は美しいが、香りを吸い込んだ方が良い。
逢魔時着生蘭が百目剝き          鈴木康之
○ おどろおどろ感が良く出ている。

過ぎりたる夏蝶見しは昔の目        妹尾題弘
○ 「昔の目」が説明に終わったか?散文的だが句はなかなか面白いところを見ている。
乾きたる五臓よろこぶ梅雨入りかな     妹尾題弘
○ 旱天慈雨を言いかえているが、物足りない。

街汗ばむ人語ピリン系の薬剤        高尾日出夫
○ よくわからない。
田を植えて人らの論説てんびん棒      高尾日出夫
○ 実感がよく分からないが、田植えに集中しないのか。

町医者の髭とピアスや夏の果        田上比呂美
○ 面白いが、「夏の果て」の季語が決まっていない。「半夏生」なら特選。
赤紙を知らぬ我等や缶ビール        田上比呂美
○ 良くわかるが「缶ビール」が唯一の欠点。「ビール干す」などにする。

骨を拾う骨に金具や聖五月         玉木節花
○ 発掘か火葬のことかよく見えない。
悉く遠景となり老の夏           玉木節花
○ 境涯感。上・中は普通。「老いの夏」で一味違うある寂しさ。

ゆさぶられたるみたまよ春の低気圧     中尾和夫
○ 震災俳句か。それと限らず海に消えた人かも。「春の低気圧」は言い方が弱い。東北には夏のヤマセもある。御霊に対する思いをもっと濃厚に出したい。
あれほどに利発なりしが落椿        中尾和夫
○ 気持がよく伝わるが予定調和的。もっと飛躍させたい。「落ち椿」は「花菜風」あたりはではどうか。

笑い皺又一つふえ梅漬ける         永田タヱ子
○ ほうれい線を女性は気にかける。「梅漬ける」に生活感がある。年齢相応の生活感。
どっと来てどっとこれから草いきれ     永田タヱ子
○ これから何をするかよくわからない。イメージ・影像をはっきりさせたが良い。中七を「どっと倒れる」など。

菜の花の沖行くあれは猿田彦か       長友 巖
○ 伝説・土地の神話の天つ神国つ神を良く描いている。風景が我々の心を打つ。
本能は兜太兜太は野の裸木 長友 巖
○ 余りに兜太過ぎるが、あいさつ句。

黒揚羽荒ぶる音の瀬を渡る         仁田脇一石
○ 句として如何ということはないが、「荒ぶる音」の古典的な修辞で黒揚羽が品よく仕上がっている。
蝙蝠の青葉色した日暮れかな        仁田脇一石
○ 日を透かして、羽根を透いて見える叙景。観察が効いている。

心臓に管の入る日蝶乱舞          服部修一
○ 自分の体験。心象として実感できた。体験者ならではの句。
紫陽花のあたまが笑いかけてくる      服部修一
○ よくある紫陽花俳句。やや平凡で物足りない。

短夜や檸檬の恋は舌足らず         早川 寶
○ 全体として甘い。「檸檬」・「恋」など。「恋」は「謎」くらいにしておきたい。
魂あればいつかどちらか夕螢        早川 寶
○ 「いつかどちらか」は少し甘い。「いつかは逢わん」などはっきりさせる。良くわかるが、もっと屈折が欲しい。

春の雨あぶな絵のようブナ倒木       疋田恵美子
○ 「春の雨」が少し甘いか。例えば春時雨とか。倒木の悲哀感。
母は寡黙糊乾きゆく襖張り         疋田恵美子
○ 忍従の生活を素直に書かれた。

納棺を躊躇う妻の沈丁花          福富健男
○ 若くして夫を亡くした妻のためらい。艶冶な感じを連想させる。
火山灰降りて沈丁花の青葉匂い立つ     福富健男
○ 風土の特色が出ている。「火山灰」はヨナとルビを振って読みをきちんと整える。

雲疾し牛飼の星見え隠れ          藤田正宏
○ 地域の特性に合った大きな景。牽牛・織女が土地への思いに通ずる。
風来れば音あるごとく小判草        藤田正宏
○ 「小判草」の音は俳句では類型がある。「ごとく」は弱い。「風あれば音そよがせて小判草」などではどうか。

終とは映画の終わり初螢          藤林伸岳
○ 洋画それもモノクロの終わり。「ジ・エンドで終わる映画や初蛍」はどうか。
朝酒やティッシュの端をてんとむし     藤林伸岳
○ 日常の細部を良く見ている。配合の面白さ。

恩師連れ廃校の谷河鹿鳴く         松浦奈保子
○ 「恩師連れ」は歳をとったらこうなるのか。同窓会でもよいか?
背負いかごバイク飛ばして梅雨晴間     松浦奈保子
○ 農村風景が良く描かれているが、「梅雨晴間」が甘い。「白南風」などが合うか。

還暦の二十歳の心何処に置く        松生臥牛
○ 気持はよくわかる。「何処に置く」がダメ。季語を使う。「螢狩り」など。
流離(さすら)わん闇の野茨香立つ      松生臥牛
○ 気持は出ているが正直に書きすぎて表現が素朴すぎる。「流離わん」は「流離(さすらい)や」の方が良い。

走り梅雨塚に再び重機入る         水本深雪
○ 古墳発掘に重機が走り、梅雨に急かされる。季節の微妙な点を捉えている。
万緑の丘を削りて牛眠る          水本深雪
○ 叙述的。地元の人でないと感じきれない牛に対する親しいい気持ち。風土に対するとらえ方のできている人の句。

入梅の風に吹かれてをりにけり       村岡壽子
○ 説明の必要も、付け加えることもない。
校庭のチャイムの音や時鳥         村岡壽子
○ 山里の学校風景。不満は「時鳥」がありきたり。「遠郭公」など。

そら豆やいまだ叶わぬ夢三つ        山口彰子
○ 「夢三つ」があいまい。「夢のあり」など絞った方が。
太陽を引き寄すひまわりの呼吸       山口彰子
○ それなりに良くできた句だが、「太陽」と「ひまわり」の取り合わせがパターン化して平凡。

旅立ちのスイッチ入る木下闇        山口木浦木
○ 「スイッチ入る」は「入れる」で能動的に。「木下闇」の季語が動くか?
車窓から風景消えて梅雨あける       山口木浦木
○ 「風景消えて」が繋がるのかよく分からない

釣りながら語らいつきぬ春休み       山野智江
○ 年よりくさい。議論は春休みらしい。人間が見えないので訴える力が欲しい。
落日の影曳き歩む白いシャツ        山野智江
○ パターンがある。季語で飛躍させると面白い。「アロハアシャツ」など。

屋根に石置いてある村あやめ咲く      山本すみれ
○ 風趣・村の風景を捉えている。ひなびた村の感傷とあやめの配合がふさわしい。
釘付けの鰻のうねり断末魔         山本すみれ
○ 言われてみればそうです。

初燕甲種合格思ひけり           吉原波路
○ 甲種合格は過ぎ去った過去のこと。もっと前面に出して。
毛虫落つ四点支持の乗りものよ       吉原波路
○ 良い作品。「四点支持の乗りもの」がわかりにくい。

小屋に歯車梅雨のはしりの雲が来て     吉村 豊
○ 「小屋に歯車」は水車小屋であって、叙景それ以上ではない。
草抜く畑もぞもぞ大地の皮膚呼吸      吉村 豊
○ 理に落ちる。しかし「大地の皮膚呼吸」で採った。スケールの大きいアニミズム感覚。

(記:吉村 豊)