現代俳句コラム

現代俳句コラム

お遍路が一列に行く虹の中風天
 風天は、映画「男はつらいよ」の主人公・車寅次郎を演じた渥美清さんの雅号である。本名・田所康雄、昭和三年三月十日、東京市下谷区車坂(現台東区東上野)に生れる。
 平成八年(一九九六)八月四日、渥美清さん逝去が報道された直後の『アエラ』三四号に、「追悼・渥美清さん『裸の心みせた寅さんの四五句』」が載った。それまで別世界の人であった寅さんと、俳句という接点ができうれしかった。
 自由律あり定型あり、形にはまらない自由人寅さん・フウテンの寅を彷彿させる俳句のなかで、掲句が平成十二年(二〇〇〇)発行『カラー版新日本大歳時記』に載った。
 渥美清生誕八十年、十三回忌の平成二十年(二〇〇八)七月十日、『風天 渥美清のうた』(森英介著)が発行され、発掘された全二一八句の風天俳句が全句公開された。
 「風天俳句全解説」を担当した石寒太氏は、その全句鑑賞の中で掲句を―下五の「虹の中」が美しい。風天俳句の秀句。と評している。
 寅さんのファンである私は、寅さんの独り言(渥美清の話を、篠原靖治が記述)
 「オレかい?オレはね。ひとり静かに、誰もいない山道をとぼとぼと歩いて行くんだよ。そうすると、落葉がね、チャバチャバと手品師の花びらのように落ちてくるんだよ。
 それでオレはね、ひとり静かに歩いていってバッタリとたおれるんだ。そうするとね、枯 葉がどんどん落ちてきて、オレはやがて枯葉に包まれて、かくれんぼしてるみたいに見えなく なってしまう。そうやってオレは、どこの誰だかわからないように死んでいくんだよ」
を口ずさみながら歩くとき、寅さんの声が聞こえてくるような気がするのである。

出典:『風天 渥美清のうた』

 
評者: 鶴岡しげを
平成24年1月31日