現代俳句コラム

現代俳句コラム

ペンギンと共に師走を肱二つドゥーグル・J・リンズィー
 ペンギンは漢字で「人鳥」と書く。それはもちろんあのぎこちない二足歩行に由来するのだろう。人間はどうにも種としては孤独で、その寂しさのあまりに「類人猿」だけでは飽き足らず、二足歩行の一事を以てこの鳥を「人」に見立ててしまったらしい。しかし水中で飛ぶように泳ぐ姿はまさに、水を得た魚ならぬ水鳥ですばらしく、私などは水族館でみていてまったく飽きない。
 掲句の作者は海洋生物学者として深海に潜ったり南極に行ったりしているから、このペンギンは野生のそれであろう。もしかして寝そべって肱を立てて生態の観察でもしていたのだろうか。年末を忙しく働く自分にも、陸上をよたよた歩くペンギンにも、等しく張る肱があることの面白さ。しかし、作者はただ見るだけの人ではない。

「生きた海洋生物を句材に用いられた俳句が非常に少ないので、句作の未開拓地であり、大きなチャンスとして考えるべきであろう。生きた海洋生物の俳句が増えれば、海への関心が高まり、海を身近く感じて大切にする心が生まれると考えたい。本当に考えたいものだ。」(『出航』「あとがきに代えて」より)

 海洋生物の危機的状況を憂い、句集にこう書かないではいられない作者の志は深い。私は半分海洋の民の血をひいていて、ある時期まで海洋生物学をやろうと本気で思っていたから、同じ視点を共有するところがある。歳時記の基本的な季節感は陸のものであり、日本は島国であっても多くは農耕の民であって海洋の民ではない。しかも、いまや海どころか川の生物への関心すら薄いと感じるし、人によっては水と人との間に鉄柵とコンクリートがないと安心できないのではないかとすら思うことさえある。
 といってトリビアルにならず、書を捨てて川や海へ出てみたくなるような句が詠めるだろうか。私にも軽くない課題である。

出典:『出航』

 
評者: 橋本 直
平成23年12月21日